〈魑魅〉乗っ取り戦②
賭博場は、〈ギルド宮〉の外にある。市街地となるため、市民が多い。ギルド員を殺すのは問題ないが、市民を殺してはいけない。
それは禁じられているというだけではなく、市民からも反感を買ってしまう。ヤミ金ギルドは、市民に愛されるタイプのギルドではないが、市民たちが一致団結して敵対してくるのは避けたいところた。
そこで隼人は、ライラ、ロスコー、ルーナに市街地での戦闘を回避するよう命じた。
賭博場の前で、ライラは言った。
「敵が潜んでいる気配はないわね」
ルカによってトムズが殺されたときは、かなりの高位な魔法陣を仕掛けられていた。あのときと同じ過ちを踏まないよう、隼人は賭博場内を念入りに魔法で探査した。
とはいえ、ルカ・クラスの魔術師が、〈魑魅〉にいるとは思えなかったが。
やがて隼人は言った。
「おかしいな。ギルド員が一人もいない。もぬけのからだ」
ライラはロスコーを見やった。
「さては、〈魑魅〉の奴らに騙されたわね。賭博場内に潜んでいると見せかけて、本当は別のところにいるのよ」
ロスコーは、ライラが上官であるため、反論はしなかったようだ。だが納得のいっている顔ではなかった。
隼人は一考してから、ひとつ考えついたことがあり、それを念頭に再度、探査魔法をかけた。
「ああ、そうか。〈魑魅〉が仕掛けた魔法陣は攻撃タイプのものではなかった。姿を隠すものだ。それもかなり巧妙にやっている。それを念頭に入れていなかったら、おれの探査魔法でも暴けないところだった」
ライラが言った。
「つまり、〈魑魅〉のギルド員は賭博場の中にいるということ?」
「ああ。おれが賭博場の外から探査魔法をかけるということを見越して、それを騙す魔法陣を張っていたようだ。奴らは、おれたちを待ち伏せするというより、どうにか潜み続けたいようだ」
ライラはバスタード・ソードを抜いた。
「〈魑魅〉の連中がいるのなら、いいわ。さっそく突撃しましょう」
隼人はロスコーに言った。
「お前は〈魑魅〉ギルド・マスターのコウカを視認しているな?」
ロスコーがうなずいた。
「はい」
「コウカの姿を記憶から見させてもらう」
そうして、隼人はコウカの姿を確認した。
隼人はライラに言った。
「ライラ、君はロスコーと裏口へ回り、おれの合図で突撃しろ」
「合図は?」
「思念伝達で伝える」
ライラはうなずいた。
「わかったわ。ロスコー、行くわよ」
ライラがロスコーを伴って、賭博場の裏へと走っていく。
隼人はルーナに言った。
「おれが表から突撃して、〈魑魅〉ギルド員を片付けていく。君は、おれをカバーしてくれ。ところで、人を殺したことはあるのか?」
ルーナがセーラに囁き、セーラが言った。
「人を殺したことはない、とのことです。ですが、やれると言っています」
隼人は一考してから、言った。
「いや、やめておこう。ルーナは、防御魔法でセーラを守ってくれ」
セーラには隼人自身も防御魔法をかけておくつもりだが、二重にしておけばさらに安全だろう。
「ルーナは、あとは敵ギルド員に、なにか行動の妨げになるような魔法をかけてくれればいい」
ルーナがうなずいた。
隼人は、火炎魔法で剣を作り、柄のところだけは金属にして握った。これを振るうと、炎の刀身から、火炎の球が射出される。複数の敵に仕掛けるには、便利な技だ。
隼人はさっそく、賭博場の入り口へと炎剣を振るった。入口の扉が、炎球の一撃で粉砕される。
同時に、隼人は思念伝達で、ライラへと伝えた。
『いまだ。突撃しろ』
ライラが思念伝達で返してきた。
『了解』
隼人は、ルーナとセーラがついてきているのを確認してから、賭博場内へと入った。隼人たちへと攻撃魔法を仕掛けようとしている連中を、素早く炎球で吹き飛ばす。
同時に、隼人は賭博場内を見回して、〈魑魅〉ギルド・マスターであるコウカの姿を探した。
やがてそれらしき人物が逃げていくのを見た。
「いたな」
隼人は、コウカの後を追った。