〈魑魅〉乗っ取り戦①
ヤミ金ギルド拠点に戻るとすぐ、隼人は幹部を集めた。そこでトムズの死を伝えた。
ヤミ金ギルドの指揮系統からして、トムズの後釜となるべきナンバー3が必要だ。その役目を幹部の一人のロスコーに与えた。
隼人は幹部たちに言った。
「トムズの死は残念だ。彼は、このギルドのために尽くしてくれた。だがいまは悲しんでいるヒマはない。ギルド・マスターが死んだことで〈メシア〉は解体、〈メシア〉を中核としていた反ヤミ金ギルド同盟は、解体された。だが、賭博ギルド〈魑魅〉を中心にして、再結成する可能性がある」
ライラが言った。
「それは、トムズの仇であるルカからの情報なわけね」
ライラは、隼人がルカを逃したばかりか、ヤミ金ギルドに入れたことをまだ受け入れていなかった。
いずれにせよ、隼人はライラと議論するつもりはなかったが。
隼人は言った。
「当初の計画に戻る。ヤミ金ギルドは〈魑魅〉を吸収し、連中の賭博場を奪い取る。同時に上位ギルド入りする。もちろん〈魑魅〉を乗っ取らなくても、ヤミ金ギルドが上位ギルド入りすることは間違いない。だが、〈魑魅〉の賭博場を所有できなければ、少しのあいだ足踏みすることになるだろう。それに、ヤミ金ギルドの今後を考えれば、賭博場は必要だ」
「〈魑魅〉のギルド・マスター、たしか名前はコウカとかだったわね。コウカの居場所は、つねにロスコーが追跡していたはずだけど」
ロスコーが言った。
「反ヤミ金ギルド同盟が、我々に総攻撃を仕掛けてきてからは、コウカ自身は賭博場に潜んでいる様子です」
ライラが怪訝な顔をした。
「だけど、〈魑魅〉は反ヤミ金ギルド同盟には加わっていなかったのよね。少なくとも、その時点では」
「おそらく、反ヤミ金ギルド同盟から密使が行ったのでしょう。ヤミ金ギルドが狙っているから、隠れていろ、と」
隼人はうなずいた。
「反ヤミ金ギルド同盟としては、おれたちが〈魑魅〉を吸収するのは避けたかっただろうからな。すると、反ヤミ金ギルド同盟の残党が、〈魑魅〉の賭博場に集まっているかもしれない。おれたちを迎えうつために」
隼人は、ライラとロスコーへと視線を向けた。
「お前たち二人だけ、おれについてこい。それとロスコー、もうナンバー3の後釜を考えるのはごめんだぞ」
ここでセーラが、隼人に声をかけた。セーラは幹部会議には参加していなかったが、隼人のそばにいた。
「ルーナもお役にたちたいそうです。同行させてあげてください」
「ルーナが? たしかに王国付けの魔術師なら、戦力としては申し分ないが。いいのか、セーラ。君の友人が無事に帰ってこられる保証はない」
「わたしはルーナが帰還できると信じています」
隼人は一考した。王国付け魔術師の管轄は、ルカだった。あのルカが、レベルの低い魔術師を部下にしていた、とも考え難い。
隼人は、ルーナを見やって、直接問いかけた。
「わかった。同行してくれ」
ルーナは目を伏せたまま、囁くように言った。
「あの……頑張り……ます」
セーラが言った。
「ルーナは人見知りな子でして。わたしには普通に話せるんですが」
「わかった。思念伝達を試してみよう」
思念伝達なら、人見知りが激しくとも関係なく、意志疎通ができるだろう。ところが、ルーナへの思念伝達魔法は、弾かれてしまった。ルーナが拒否したようだ。
隼人は、ルーナに聞こえないよう声を落として、セーラに言った。
「セーラ、意志の疎通がはかれないと、戦場に連れていくのは難しいな」
「わかりました。わたしも同行します。わたしが、いわばルーナの通訳を行います」
戦力にはならないセーラを連れていくのは危険だった、が。セーラは意志の強い視線を、隼人に向けている。これは、置いていくのは難しそうだ。
隼人は溜息をついた。
「わかった。ルーナの通訳は、君に任せよう」
それから隼人は、ライラ、ロスコー、ルーナを順に見てから、言った。
「よし、出発しよう」