メシア戦12
ロクもなかなかの手練れだが、ライラに注意を取られていたのが、命取りだった。
隼人の遠隔魔法による攻撃で、絶命した。そのことは、ルカもすぐに気づいた。
ルカは小首をかしげた。
「はじめから、キミ自身がロクを始末するつもりだったわけだね。ライラにロクを追わせ、キミの『眼』の代わりにするつもりだった、と」
隼人はうなずいた。
「状況次第では、ライラにロク殺しを任せることになっていたが」
「状況次第? なるほど、キミがボクと戦闘していたら、いくらなんでもロクを一撃で仕留められるレベルの遠隔魔法は、放てなかっただろうね」
ルカが、隼人の時間かせぎに乗ってくれたおかげで、隼人の作戦は成功した。だがルカほどの大魔術師が、隼人の作戦を読めなかった、というのも解せない。
ルカは、わざと隼人にロクを殺させたのか?
隼人は言った。
「お前の考えがどうあれ、お前は失敗したわけだ。ロクを守護する、という王の命令を。となると、ヤミ金ギルドに来ざるをえなくなった」
「まぁ、そうかもしれないね。ところで、この瞬間〈メシア〉は、キミのものになったわけだけど。どうするつもりなのかな? ヤミ金ギルドが、〈メシア〉のハンター業を引き継ぐというのなら、王もキミのロク殺しを許すかも」
「あいにく、ヤミ金ギルドはハンター業などは行わない」
ルカは微笑んだ。
「それだと、王国に宣戦布告するようなものだね」
ヤミ金ギルドは、まだ中位ギルドだ。とはいえ、実力自体は上位ギルドのトップに位置する。
それでも王国に宣戦布告まがいのことをするのは、まだ先の計画だったが。
隼人は肩をすくめた。
「やむを得ないな」
ルカはうなずいた。
「ボクはキミたちにつこう。だけど、ボクをライラみたいに使えるとは、思わないことだね」
「その期待ははじめからしていない」
もともとルカは王国付け魔術師でありながらも、あまり王族に忠実という様子もなかった。
「今後は、キミたちヤミ金ギルドにプラスになるよう、ボクも動くとするよ。それでいいかな?」
「お前が敵ではない、という事実だけで十分だ」
それが隼人の正直なところだった。
「じゃ、さっそく一つ助言しようか。キミたちはこのあと、賭博ギルド〈魑魅〉のギルド・マスターを殺す予定だよね? そうして、〈魑魅〉を吸収する。賭博場が欲しいから」
「よく知っているな。いまさら驚かないが」
「なら早く動いたほうがいいね。〈メシア〉が潰れたからといって、反ヤミ金ギルド同盟が解散する、とは限らない。もしかしたら、今度は〈魑魅〉と組むかもしれない」
ヤミ金ギルドの狙いが〈魑魅〉と知れていた場合、その可能性は十分あるか。
隼人はうなずいた。
「その助言、ありがたくちょうだいしておく」
ルカは笑った。
「では、またね」
そして、空間転移で消えてしまった。
それから数分後、ライラが戻ってきた。片手には、ロクの生首を持っている。
ライラはロクの生首をかかげた。
「殺した証拠にね」
「憲兵団が駆けつけてくる前に、〈大王宮〉から脱出するとしよう」
隼人とライラは、ルーナの隠れ家まで急いだ。そのまえにロクの生首を〈神の宝物庫〉にしまうことを忘れずに。
セーラは、隼人とライラが無事なのを見て、喜んだ。
隼人が〈大王宮〉を脱出することを話すと、セーラは言った。
「ルーナも連れていってあげてください。わたしをかくまっていたことが知れたら、大変です」
王の狙いはヤミ金ギルドで、セーラもいまやヤミ金ギルドの一員といえる。そのセーラをかくまったとなっては、王国付け魔術師の1人であるルーナの身も、危ないか。
隼人は確認を取った。
「それは、ルーナもヤミ金ギルドに入る、ということか? 本人は了承しているのか?」
「はい」
「なら歓迎しよう」
隼人、ライラ、セーラ、ルーナは、〈大王宮〉を後にした。
隼人は、地上に無事に降りてから、〈大王宮〉を見上げた。
そばにライラがいたので、隼人は言った。
「トムズは良い奴だったな」
ライラはうなずいた。
「ええ。失って悲しいわね」