メシア戦⑪
隼人はルカに対して、攻撃魔法を発動した。同時に、状況を確認する。狩場の開けたところで、ライラとルカは対決していたようだ。
一方、ロクの姿はない。ロクも相当なレベルを持っているはずだが、ルカが万が一に備えて、逃がしたようだ。
ライラを見ると、軽く負傷しているが、まだ戦えそうだ。
隼人はライラに思念伝達魔法を使った。
『ロクを見つけたのか?』
前に思念伝達は行ったことがあるので、ライラはすぐに反応した。
『ええ。あいにく、逃げられてしまったけど』
『ルカはおれがひきつけておくから、お前はロクを追え』
『了解』
隼人は一考してから、付け足した。
『まて、ライラ。ロクを視認したら、まずおれに知らせろ』
『この思念伝達で?』
『そうだ』
『なぜ?』
『考えがある』
『わかったわ』
ライラはルカに背を向けて走り出した。
隼人はルカがライラへと攻撃すると考え、防衛魔法をライラの周囲へと張り巡らした。ところがルカは隼人へと、大がかりな破壊魔法を放った。
隼人は自分への防衛魔法は強化していなかったので、不意の攻撃に対処しきれなかった。
隼人は後方へと吹き飛ばされた。
自分のステータスを確認すると、HPが9900にまで減っていた。『∞』という表記は、やはり信用できなかったか。
それでも、これまでどのような攻撃を受けても、『∞』が変動することはなかった。ルカは通常では見られないレベルの破壊魔法を、詠唱することもなく放ってきたようだ。
また、あえてロクを追ったライラを狙わず、隼人に仕掛けてきた。
隼人を始末してから、ライラを追えばよい、という判断だろう。
とくにライラが追っているロク自身が、ハンター・ギルドのギルド・マスターだ。手負いのライラでは、もしかしたら勝てないかもしれない。
隼人は言った。
「ここでお互いに潰しあうのは、得策ではないのではないか」
ルカは言った。
「ボクが勝つから、潰しあうことにはならないかな」
「ヤミ金ギルドを評価していると思っていたが」
「そうだね。だけど、トルネの殺し方がよくなかった。確実に事故死とされなかったので、ボクが責任を取らされそうになってね。いまのところ、まだヤミ金ギルドに肩入れしているスイアは王ではないし。そんなとき、ヤミ金ギルドが〈メシア〉を潰そうとしている、と聞いてはね」
「すると、〈メシア〉が潰されては、お前としても困るわけだ。失態続きとなる」
「そうだね」
「では、そのときはあらためてヤミ金ギルドの一員になってくれるな」
「キミのところの側近を殺した者を、仲間にするの? そもそも、〈メシア〉は潰させないから、その前提はなりたたないけど」
たしかに、トムズの死はヤミ金ギルドとしても痛かった。それにトムズは忠実な男だったので、仇を取ってやりたい気持ちもある。
だが、隼人はギルド・リーダーとして、なによりもヤミ金ギルドの勢力拡大を、第一に考えていなければならない。
隼人は言った。
「お前がトムズを殺したことを、ヤミ金ギルド内で言いふらす必要はない」
「さっきのライラという子は、ボクがトムズとかいうのを殺したのを知っているけどね」
「ライラは副官だ。彼女もヤミ金ギルドのことを第一に考えるはずだ」
ルカは興味をひかれたようだったが、すぐに首を横に振った。
「時間稼ぎしていたようだけど、意味がないね。ライラはロクを殺せない」
「時間稼ぎだけが目的じゃない。おれが〈メシア〉のリーダーを殺したら、お前はヤミ金ギルドに入るしか道はない、という話をしていたんだ」
そのときライラから思念伝達があった。
『ロクを視認したわ』
隼人はライラの『眼』を借りて、ロクを視認した。これによってロクのいまいる座標を、正しく認識できた。
座標さえわかれば、あとは簡単だ。
隼人はルカに気づかれないように、大がかりな魔法陣を練っていた。
その魔法陣は不可視にしてあったし、仮にルカが気づいていたとしても、自分に対する攻撃用と解釈していただろう。
だがそれはロクを一撃で殺すためのものだった。
隼人はロクへと、遠隔からの破壊魔法を放った。
ロクの体はバラバラに砕け散った。




