メシア戦⑩
隼人は狩場を守護しているルカの防衛魔法を破壊した。
これでルカにも気づかれただろう。
隼人はライラとともに狩場内へと入った。
瞬時に狩場全体を網羅できる大がかりな探索魔法をかけた。
〈メシア〉ギルド・マスターであるロクの姿形を知らないため、ロクを確実に探索できるわけではない。それでも狩場内に人がいるかどうかは探索できる。
本当は狩場内へと侵入する前に探索しておきたかったが、ルカの防衛魔法がそれさえも妨げていたのだ。
隼人はすぐに2人の人物が狩場内にいることを探索した。どちらかがロクか、または無関係な王族ということになる。
さらに問題なのは、2人の人物が、狩場の北と南、もっとも離れた位置にいるということだ。隼人はこの事情をライラに話した。
ライラは覚悟を決めた様子で言った。
「じゃあ、どっちらが南へ、もう1人が北に向かうしかないわね」
ここで分散するのは得策なのか。だが選択肢はほかにないようだ。
隼人はうなずいた。
「しかし、ライラ。もしもお前の向かった先にロクがいたとしたら、ルカもお前を追ってくるぞ」
「そのときは、わたしが時間を稼ぐから、ハヤトが駆けつけてくれればいいわ」
「死ぬ気か?」
ライラは隼人の問いかけには答えず、言った。
「わたしは北に向かうわ」
隼人は改めて探索魔法を確認したが、これだけでは北が正解か、南が正解かはわからなかった。
「わかった。おれは南へ向かおう。あるていど南にいる者に近づけば、遠隔魔法で片付けられる。それから空間転移も使って北へ向かう。だから、仮に北にいるのがロクだとしても、ルカが来る前におれも駆けつけられるかもしれない」
「わかったわ」
ライラはそれだけ言うと、北へと走り出した。
隼人は、視認できる範囲で空間転移を繰り返して、南へと急いだ。視認できる範囲にとどめたのは、事故を避けるためだ。
やがて、南にいる者へ遠隔魔法による攻撃が届くところまで来た。だが隼人は一考せざるをえなかった。仮に南にいる者がただの王族だったとしたら、厄介だ。
ヤミ金ギルドが王族殺しをしたことになる。
隼人は遠隔攻撃をせず、空間転移を繰り返した。やがて南にいる人物を視認できるところまで来た。
隼人は樹の上から、南の人物を見下ろした。その人物は王族と一目でわかる衣装を着ている。とはいえ、ロクが王族になりすましているのかもしれない。
隼人はしばし考えてから、南の人物の足元へと、雷の魔法を放った。
すると、南の人物は驚いて飛び上がった。もしもロクが〈メシア〉ギルド・リーダーならば、不意の攻撃に対して、あのような反応はしないだろう。敵の攻撃に備えようとするはずだ。
では、あの男はただの王族か。
狩場内にロクがいるとしたら、北の人物こそがそうだ。隼人は急いで、北へと向かった。
北の方角から、激しい魔法攻撃の波動が伝わってきた。ライラは魔法タイプではないので、これほど大掛かりな魔法攻撃はできないだろう。
ロクが、ライラに対して放っている、とも考えられる。だが、この魔法量は強すぎるようだ。たしかにロクは、上位ギルドのマスターではあるが。
やはり、これはルカの魔法、と考えるべきか。
隼人は視認範囲内ではなく、可能な限り遠くまで空間転移した。
だが、森林地帯で行ったため、空間転移で出た先が、樹木の中だった。隼人は樹木を破壊して、事なきを得た。
そうしているあいだにも、北の方角からの魔法攻撃量は増大していく。これはもう、ルカであることは間違いない。
そのルカの攻撃が継続されているということは、ライラが持ちこたえているようだ。
やがて、隼人は開けたところに出た。
ルカを視認する。