メシア戦⑨
〈メシア〉ギルド・マスターであるロクを殺すにあたって、ルカとの遭遇は避けたかった。
隼人は考えを口にした。
「ロクは、どこにいるのか。これを正確に当てられれば、勝機はある」
ライラが言った。
「地下壕にも大城塞にもいないとなると、どこにいるのしら?」
「狩場かもしれない。いちばん考えにくいところだからな」
一度でも、ロクの姿を視認できれば、追尾魔法で、つねに居場所を探れるのだが。
隼人は、周辺マップを魔法で出してから、森林地帯を狩場へと進んだ。
狩場の近くには、衛兵の姿があった。衛兵と憲兵団が同じなのかどうかはわからないが、この衛兵のレベルは83だった。隼人とライラにとって脅威ではないが、ここは下手に接触して、騒ぎを起こさないほうが良い。
そこで隼人は不可視の魔法を、自分とライラに使った。
やがて狩場のまわりにある柵のところまで行った。
先にライラが柵を越えようとするが、隼人が止めた。
「まて。その柵には全体に防御魔法がかかっている。無防備で越えようとしたら、危ない」
「つまり、どういうこと?」
「狩場は、防御魔法で守られているようだ。それも強力な防御魔法だな」
ライラは首をひねった。
「変ね。前に来たときは、防御魔法なんてかかってなかったわよね。あれから、まだ半日しか経ってないのに」
「では、半日のうちに何者かが、狩場を守るように防御魔法を張ったのだろう」
ライラが緊張した様子で言った。
「それって?」
隼人はうなずいた。
「間違いなく、ルカの仕業だろう。ルカは狩場を守るようにして、防御魔法を張った。ルカほどの魔術師でも、これは大がかりな魔法だ。そんなことをしたということは、狩場のなかに、どうしても守護しておきたい『何か』があるということだ」
「ロクがひそんでいる可能性が、格段に高まったというわけね」
隼人は、柵の一角へと片手を向けた。そして、防御魔法が確実に、狩場を囲う柵全体へと巡っているのか、感知魔法で確かめた。手抜かりがあって、防御魔法の途切れている個所があれば、そこから狩場内へと侵入できる。
だが、そこはルカの仕事だ。手抜かりなどはなかった。
ライラが心配そうな様子で言った。
「防御魔法を破れないの?」
「いいや。防御魔法を破ることは可能だ。しかし、破ったとたん、ルカに気づかれるだろう」
「すると、ルカは知るわけね。わたしたちが狩場内にいるロクを仕留めようとしている、と」
「防御魔法を破ってからは、時間との勝負だな。ルカと直接対決して勝てる確率は五分。できればルカとの戦闘は避けたい」
「ルカが駆けつけてくるまえに、ロクを見つけて、殺すわけね」
隼人はうなずいた。
「そうだ」
ライラはバスタード・ソードを鞘から抜いて、微笑んだ。
「いいわね。面白そう」