メシア戦①
こうして、〈メシア〉の件で、隼人はスイアと取引することができた。
隼人は、スイアに『真偽』の魔法をかけてから、ヤミ金ギルドが〈メシア〉を潰すことを許すか、と問うていた。
「おれたちヤミ金ギルドの条件をのんでくれるな?」という言葉で。
これに対して、スイアは「〈メシア〉は惜しいが、これも取引だ」という言い方で、許可を出した。このときに、スイアが本気であるか、『真偽』の魔法で確認したのだ。
スイアは本気で、〈メシア〉潰しの件を了承していた。
スイアのようなプライドの高い者ならば、一度、自分で認めたことを後々で覆したりはしないだろう。
またスイアは王位継承権1位。近くには王になる男。王国内での発言力は強いので、スイアから了解を得ておけば、問題ないといえる。
これによって、ヤミ金ギルドは〈メシア〉を潰すことが可能となった。
〈メシア〉が潰れれば、反ヤミ金ギルド同盟も解散するだろう。
隼人、ライラ、セーラは大岩に乗って、〈大王宮〉から地上へと降りた。
セーラが心残りのある様子で言った。
「ルーナと会えなかったのが残念です。きっとわたしのことを心配していると思います」
隼人は言った。
「ルーナというと、セーラの幼馴染の魔術師のことか」
隼人は一考してから続けた。
「セーラ。君はすぐにルーナと再会できるように思うな」
どういうわけか、隼人は近くに〈大王宮〉にまた戻るような気がした。
馬は木につないであった。3人はそれぞれの馬に乗って、〈ギルド宮〉へと戻った。
〈ギルド宮〉のヤミ金ギルド拠点③(四つある拠点の中でも、もっとも規模が大きい)に行くと、負傷者であふれていた。
いくつもの寝台に負傷者が寝かされ、治癒魔法の心得がある者が、治療にあたっている。隼人たちに気づいたトムズが、慌ててやってきた。
隼人は言った。
「これはなにごとだ、トムズ?」
トムズは無念そうに言った。
「反ヤミ金ギルド同盟の襲撃を受けました。我々も応戦したのですが、大きな損害をこうむりました。すべて私の力不足です」
ライラが言った。
「わたしが残るべきだったわ。わたしが指揮していれば、こんなに負傷者を出すことはなかったもの」
敵はヤミ金ギルドより何十倍も人員がいる。たとえライラが指揮しても、結果に変わりはなかっただろう。もちろん、隼人はそのことを指摘したりはしなかったが。
隼人は言った。
「連中が仕掛けてくるのは、ヤミ金ギルドが上位ギルドになってから、と思っていた。というのも、いくらヤミ金ギルドが勢いのあるギルドだからといって、中位ギルドを潰しにかかるのは大袈裟だからな。だが、おれたちの考えが甘かったようだ。まさか、このタイミングで仕掛けてくるとは」
ライラが言った。
「考えようによっては、まだヤミ金ギルドが全滅していないことを幸運と見るべきかも」
隼人もライラと同感だった。
「そこはトムズの働きのおかげだろう」
トムズが言った。
「恐縮です」
「さて、ここからどう出るか、だ。負傷者たちの回復を待ってから、反ヤミ金ギルド同盟に総攻撃、というのも1つの手だと思うが」
ライラが首を横に振った。
「反ヤミ金ギルド同盟は、体勢を立て直して、すぐにまた攻め込んでくるはずよ。こちらは、負傷者たちの回復を待っている余裕はないわ」
トムズがうなずく。
「奴らは、いまを逃さず我々を潰そうとするでしょう」
隼人も、ライラとトムズの考えと同じだった。
「すると、反ヤミ金ギルド同盟がまた仕掛けてくる前に、奴らを叩き潰すしかない。つまり、反ヤミ金ギルド同盟を率いる〈メシア〉、このギルド・マスターを殺す」
ライラが言った。
「だけど、相手もそれは読んでいるでしょうね。わたしたちが〈メシア〉のギルド・マスターを狙う、と」
隼人はうなずいた。
「〈メシア〉のギルド・マスターは、どこかに潜んでいるだろう。そこから全体に指示を出している。いまのところ、〈メシア〉のギルド・マスターが誰かさえつかめていない」
「隼人、スイアの位置を特定したときの魔法があるじゃない。あれで〈メシア〉のギルド・マスターの居所をつかめるのでは?」
「『人捜し』の魔法を使うには、捜す人物の名前と姿形を知る必要がある。あのときはセーラの記憶から、スイアの姿を見たんだ」
「じゃあ、〈メシア〉のギルド員を捕まえて、ギルド・マスターの姿の記憶を見るしかないわね」
「それも、ただのギルド員ではダメだ。そんな下っ端には、ギルド・マスターは姿を見せないだろう」
トムズが言った。
「狙うは〈メシア〉の幹部ですね」
隼人はうなずいた。
「〈メシア〉を潰す第一段階は、〈メシア〉幹部を捕虜にすることだな」