暗殺①
スイアとの話し合いを終えて、隼人は廊下に出た。待機していたライラに、スイアとの交換条件を話す。
ライラが言った。
「暗殺を請け負ったの? その暗殺だけど、スイアはなにか条件をつけてきた?」
隼人は答えた。
「騒ぎにはさせるな、と言っていたな。おそらく、事故死に見せかけろ、ということだと思うが」
「そうね。王国内であらさまに殺しがあっては、大変だものね。しかも、殺されるのが、王位継承権第2位と宰相では」
「ライラ、これはお前の専門だ。なにか計画があるなら聞きたいが?」
ライラは少し考えてから言った。
「問題は、トルネとビルドが普段は個別に行動しているだろう、ということね」
「陰で組んでいるため、表立っては行動を共にしていない、ということか。それなら、別個で始末していけばいいだけじゃないか」
「連続して事故死が起きれば、不審に思われるわ」
ライラの指摘に、隼人はうなずいた。
「理想は、トルネとビルドが同行しているところを、まとめて消すことか。たとえば、2人が馬車に乗っているところを、事故に見せかけて殺すとか。馬車の事故だから怪しまれない。ただし、2人が別々の馬車に乗っていて、別々に事故を起こさせるとなると──」
ライラがうなずいた。
「ええ。よくある馬車の事故も連続すれば、疑いをもたれるわ」
ここで、いままで沈黙していたセーラが言った。
「あのう、お2人とも。殺すことはどうしても避けられないのでしょうか? 話し合いで解決する、などということはできないのでしょうか?」
「セーラ、ここまでくると話し合いの解決は不可能だな。君の身の安全のためにも、殺すのがベストだ」
しばらく、セーラは葛藤している様子だった。
やがて決意するようにうなずいた。
「わかりました。それでしたら、ご協力できるかもしれません」
隼人は聞いた。
「どういうことだ?」
「〈大王宮〉には狩場があります。狩場にはモンスターが放たれていて、王継承権の高い者は、この狩場を自由に使えるのです」
「モンスターが? 危なくないのか?」
「すべてのモンスターには制御魔法がかけられていて、人間を攻撃できないようになっています」
「人間を攻撃しないモンスターを狩る、という趣味か。王族らしい悪趣味さ、だ。しかし、その狩場がどう関係してくるんだ?」
「わたしが〈大王宮〉にいたころ、トルネさんは狩場の常連と聞きました。いまもそうかもしれません。そして、狩場は100パーセント安全、とも言い切れません。ときおり、制御魔法が利かなくなったモンスターが人を襲うことがあるのです。滅多にあることではありませんし、たいていの王族は最低限の力を持っていますので、いざというときも身を守れますが」
隼人は、セーラが遠まわしに言っていることに気づいた。セーラもなかなかの策士のようだ。
隼人はライラに言った。
「ビルドとしては、トルネに利用価値があるうちは、万が一の事故も避けたいと考えているはずだ」
ライラがうなずいた。
「そうね。狩場でトルネが命を落すのは避けたいはずよね。モンスターに制御魔法がかけられているとはいっても、万が一、ということもあるわけだし」
「だから、トルネが狩場に行くときだけは、ビルドも同行するはずだ」
「または、少し離れたところから見張っているとかね。いずれにせよ、近くにいてくれるなら問題ないわね」
隼人にセーラに言った。
「セーラ、狩場へ案内してくれるか?」
「はい」
セーラの案内で、隼人とライラは狩場に向う。
狩場は、大城塞を出て、南側の森林の奥にあった。狩場への移動のさいは、不可視の魔法によって、隼人たちは衛兵などの目を欺いた。
狩場は、その敷地を魔法の柵で囲われていて、万が一にもモンスターが逃げ出さないようになっていた。
隼人は言った。
「問題は、いつトルネがやってくるか、だが」
ライラが溜息をついた。
「トルネがビルドを連れてやってくるまで、待機するしかないわね。最悪、長期戦になるかもしれないわ」
セーラが、大城塞のほうを指差した。
「見てください、トルネさんがやってきます。隠れないと」
「いや、おれたちはまだ不可視状態だ。隠れる必要はない」
セーラが言ったように、大城塞のほうから路を歩いてくる人物こそは、王位継承権第2位のトルネだ。
ライラが言った。
「こんな都合のよい話ってあるかしら?」
隼人は笑った。
「おれの『運』が『∞』であることを忘れるなよ」