〈大王宮〉にて②
大城塞の城門を無事に通過した、隼人、ライラ、セーラは、中庭を横切った。入り口から、堂々と城内へと入る。1階は大広間で、いまはひと気がなかった。
大広間からは階段が複数のびている。どの階段を使えば最短でスイアの居室へ行けるのか? 隼人は、スイアの現在位置と城内の地図を照らし合わせる。城内の地図は、セーラの記憶から拝借した。
「こっちだ」
隼人が先頭に立って、階段を上りだした。
ライラが隼人の横までやってきて、言った。
「ハヤト。考えていたのだけど、宰相ビルドのことを」
「ああ」
「どうやら、のちのちヤミ金ギルドにとって障害になりそうだわ。直感だけれど、そう思うのよ」
以前、ビルドはセーラを口封じするため、ルカと憲兵を差し向けてきた。そのときはルカが中立の立場をとったので、事なきを得たが。
隼人はうなずいた。
「そうだな。どうもビルドというのは胡散臭い。いまの王が崩御した暁には、トルネを王にして操るつもりかもな」
「トルネを傀儡にしようというわけね。だけど、そのためにはまだ王位継承権第1位のスイアが障害となるわね」
「だから、ビルドとトルネの企みを教えるために、わざわざ来たわけだろ。スイアに恩義を売って、〈メシア〉を潰す許可を得る。その上で、ビルドの企みも阻止できる。スイアという者がどういう輩から知らないが、ヤミ金ギルドにとって最たる障害となるのは、お前の指摘どおりビルドだろう」
ビルドのような裏工作をする奴が、いちばんヤミ金ギルドとは相性が悪い。少なくとも、隼人はそう考えているし、ライラも同感のようだ。
「それでね、ハヤト。いっそ、いまここでビルドを消してしまったら? そっちのほうが確実に障害を排除できるわ」
元・暗殺ギルドだけあって、ライラは邪魔者を見つけると、すぐに殺したがる。
隼人はうなずいた。
「まあ、それはおれも考えた。だが、どうかな。スイアに恩義を売るためには、おれたちの身許を明かすしかない。おれたちのことを知ったあとで、ビルドが何者かに殺される。そうしたら、スイアはどう考えるだろう?」
「あたしたちが殺した、と考えるでしょうね。でも、問題ないはずよ。スイアにとっても、ビルドは敵なのだから。もちろん、それは隼人がビルドの陰謀を伝えてからのことだけど」
「そこが難しいところだ。たとえば、ライラ。ヤミ金ギルドの幹部に裏切り者がいたとしよう。それを外部のギルドに教えられたら、ひとつ借りだと思うだろう」
「そうね」
「だが、その外部ギルドが、ヤミ金ギルドの裏切り者を殺したらどう思う?」
「それは越権行為だわ。いくら裏切り者だからといって、外部ギルドがヤミ金ギルドの者に手出ししていいはずがないわ」
そこまで言って、ライラは納得がいったという様子だ。
「王族のスイアにとっても、同じということね。ビルドを殺したのがヤミ金ギルドと知ったら、スイアは快く思わないわね。余計なことをするな、と考えるはずだわ」
「そうなると、せっかく恩義を売っても台無しになってしまう。だから、ビルドはまだ殺さない」
話し合いを終えたタイミングで、隼人たちは4階にたどり着いた。隼人は、まわりに誰もいないのを確かめてから、不可視の魔法を解いた。
セーラに尋ねる。
「君の記憶にあったということは、スイアとは面識があるわけだ。それで、どれくらい親しいのかな?」
「食事会でご一緒したことがあります。気さくな方でした」
「取り次いでくるか? いきなりギルド民が現れたら、スイアは警戒するだろうから」
「はい、わかりました!」
セーラは嬉しそうだった。
ようやくヤミ金ギルドの役に立てられるということで、喜んでいるようだ。すでにセーラは、ヤミ金ギルドへと、いろいろな利益をもたらしてくれているのだが。
それを言うなら隼人自身も、セーラがいてくれたおかげで、多くのものを得られた。
スイアの居室のドアを、セーラがノックする。やがて室内から返事があり、セーラが招き入れられた。
5分ほど経つと、セーラが1人で廊下に出てきた。
「スイアさんが、ハヤトさんにお会いしたいと仰っています」
隼人は、ライラに見張りを頼んでから、スイアの居室に入った。
ここは、うまく恩義を売る必要がある。