計略①
〈魑魅〉のギルド・マスターを殺す日まで、残り20日となったところで、ヤミ金ギルドに来客があった。
魔術師の少女ルカだ。
ルカは、隼人とセーラの居宅といえる拠点①に、直にやってきた。『魔法扉』をなんなく開けてしまう形で。
隼人は、ここのところルカへの警戒心が薄れていたのを反省した。
「魔術師がなんのようだ?」
セーラはソファで読書していたが、ルカに気づくと、微笑んで挨拶した。
「お客様ですか、いらっしゃい」
「セーラ、彼女は魔術師のルカだ。君の命を取りにきたと思われるので、挨拶しなくていい」
「え、そんな!」
ルカが面倒くさそうに言った。
「セーラを殺しにきたわけじゃないよ。ヤミ金ギルドのマスター、キミに助言しにきたんだよ」
「助言? すると、ヤミ金ギルドに入る気になったのか?」
「ヤミ金ギルドが、王国の支配下から抜け出ることがあったら、そうしようかな」
ほとんどのギルドは王国に管理されている。が、王国規模の勢力を持つことによって独立したギルドが、3ギルドある。ひとまず、ヤミ金ギルドの目標も、この独立だった。
「独立か。近い将来そうなる」
「けど、いまは上位ギルドへのレベルアップを前にして、障害が立ちはだかっているそうじゃないか」
「反ヤミ金ギルド同盟のことだな。たしかに同盟の中心となっている〈メシア〉には、頭を悩ましてはいる」
「ついに、セーラから話を聞くときがきた。ボクはそう助言しに来たのさ」
それだけ言うと、ルカは消えてしまった。瞬間移動の魔法だろう。ルカだけは、どうにも扱いきれる自信がない。
だが、ここは大人しく助言に従おう。ルカの狙いはハッキリしないが、たしかにセーラから話を聞くべきときがきたのかもしれない。
隼人は、セーラと向き合った。
「ルカに言われて、というのは気にいらないが。セーラ、そろそろすべてを打ち明けてほしいんだ。君が王族であることは知っているから──」
「え! ご存知だったのですか!」
「いままで気づかれていないと信じていたほうが、驚きだな」
それがセーラらしいともいえるが。
「君は、王族同士の殺人を見てしまった。いったい誰が誰を殺したんだ?」
セーラと出会ってから、もう7ヵ月も経つ。これまで、この王族殺人についてライラが探りを入れてきた。だが、さすがに王族のことともあって、ガードが固く、いまだに殺された王族さえつかめていなかった。
セーラは逡巡しているようだ。
隼人は言った。
「セーラ、おれとライラを信じてくれ」
タイミング良く、ライラが拠点①に入ってきた。
「ハヤト、また反ヤミ金ギルド同盟に、新しいギルドが加入したわよ。いよいよ、困ったことに──あら、取り込み中?」
セーラは、隼人とライラを交互に見てから、決意したようにうなずいた。
「わかりました。お話しします。本当はもっと話すべきでした。申しわけないです」
それから、隼人とライラは、セーラが目撃したことのすべてを聞いた。
セーラの話を聞き終わってから、隼人は言った。
「殺されたのが、王位継承権第1位の王族グル。そして、このグルを殺したのが、王位継承権第3位の王族トルネだったとは。まぁ、グルとかトルネとかいう名前は初耳だが。王位継承権というのはわかりやすい」
ライラが言った。
「王位継承権3位による殺人を目撃してしまっては、セーラとしては逃げるしかないわよね」
宰相ビルドは、トルネの命令で動いているのか。または、3位トルネの1位グル殺しがおおやけになるのを恐れて、個別で動いているのか。
「ところで、王位継承権第2位は?」
セーラが答えた。
「スイアという方です。良い方です」
「トルネがグルを殺したのは、いまの王が崩御されたとき、自らが王となるためではないか? とすると、まだ邪魔者がいる」
ライラがうなずいた。
「王位継承権第2位のスイアね。いまはまだ無事なようだけど」
〈メシア〉のギルド・マスターを殺せば、反ヤミ金ギルドの同盟は自然消滅するだろう。だが、それは〈メシア〉そのものを潰すことになる。〈メシア〉は王国とも懇意にしているので、いまここで〈メシア〉を潰すのは得策ではない。
それが、いままでの障害だったが。
トルネの件をうまく利用すれば、障害が取り払われるかもしれない。
「スイアに、トルネのことを教えてやろう。身を守れ、と」
ライラが微笑んだ。
「親切ね。もちろん、ただの親切心ではないのでしょうけど」
「スイアに恩を売って、ヤミ金ギルドが〈メシア〉を潰すことをお許しに願おう、というわけだ」
隼人はライラとセーラを見た。
「さっそく〈大王宮〉とやらに行くとしようか」