貸付する
その日のうちに、14のギルドがヤミ金ギルドのもとにやって来た。
これらのギルド・リーダーのうち、何人かはトゴ(10日で5割)の高金利に文句を言った。だが、最終的には受け入れた。
明日までに認可金が必要なのだ。認可金がなければ、ギルドを潰されてしまう。高金利だろうと、いまはヤミ金ギルドから借りるしか道はない。
もちろん、一晩のうちに稼ぎ出す方法もある。だが、まず現実的ではないだろう。これが上位ギルドなら可能だったかもしれない。だが中位ギルドでは不可能だ(隼人が中位ギルドを狙ったのには、このことも理由の1つだった)。
夜遅くになって、隼人は言った。
「よし、店じまいとするか」
これまで、ヤミ金ギルド拠点の『魔法扉』を開けていた。新規顧客となるギルド・リーダーを迎え入れるためだ。その『魔法扉』をトムズが閉めた。
ライラが貸付帳簿を見ながら言った。
「認可金を借りにきたのは14のギルド。ハヤトの目標は、最低でも20ギルドだったわね。目標には、6ギルド足りなかったわ。けど、落胆することはないわ。充分な数よ」
隼人は言った。
「認可金の納入だが、厳密には25日のいつまでなんだ? 25日の日付が変わるまでに納入すれば良いのか?」
「いいえ。納入の受付開始が、25日の朝6時。受付終了が、お昼の13時。この7時間のうちに、定められた認可金を納入する必要があるわ」
「なら、新規顧客になるギルドは、まだ増えるはずだ」
翌日、25日。
早朝から、ヤミ金ギルド拠点には、ライラとトムズがやって来た。セーラはまだ寝台で健やかに眠っている。
隼人は、ヤミ金ギルドの認可金を巾着に入れて、トムズに渡した。
「確実に、納入してきてくれ」
認可金の納入は、〈ギルド宮〉中枢の受付で行われる。
トムズが敬礼した。
「了解しました」
ライラが言った。
「トムズ、1人で行かないほうがいいわ。認可金を納入しに行くところを狙ってくる輩も少なくないわ。部下を連れていくことね」
「そうしよう」
トムズと入れ違いに、さっそくお客が来た。
中位の鍛治ギルド〈落〉のリーダーだ。この〈落〉も、認可金を強奪されたギルドの一つだ。
隼人は、トゴの説明をしてから、〈落〉が必要とする額(認可金分)のカネを貸した。
〈落〉のリーダーが去ってから、隼人はライラに言った。
「被害にあったギルドの中には、ギリギリまで金策に走るところもある」
「それでも認可金を稼げなかったら、ヤミ金ギルドに頼るしかない、というわけね」
昼までには、さらに三つのギルドが、ヤミ金ギルドの新規顧客となった。
ライラは貸付帳簿に記入しながら言った。
「さっきの調理ギルドだけど、借りたお金が少なかったわね。認可金に必要なのは、120万G。それなのに借りたのは、40万Gよ」
「80万Gは、なんとか稼ぎ出したんだろ。納入の受付終了ギリギリに来ただけはある」
12時35分。もう借りにくるギルドはないだろう、と思った矢先、錬金ギルド〈ルシカ〉のリーダーが駆け込んできた。
150万Gを大至急で借りたい、と言う。
隼人は、前にライラからもらった懐中時計を見て、言った。
「貸すのは構わないが、金利は10日で7割だ」
錬金ギルド〈ルシカ〉のリーダーが怒鳴った。
「ふざけるな! 10日で5割と聞いたぞ!」
「先ほどまでは、5割だった。だが、いまは7割だ。嫌なら、べつに構わない。貸さないだけだ」
隼人は、わざとらしく懐中時計を見て、つづけた。
「13時まで、あと20分もないな。ここから、納入受付のある〈ギルド宮〉中枢までは、走って15分はかかる」
〈ルシカ〉リーダーは顔を真っ青にして、頭を下げた。
「わ、わかった。それで、いい。10日で7割でいいから、貸してくれ! 頼む! 150万Gが必要なんだ!」
「7割を天引するから、150万Gの貸付では、実際のところお前に渡せる額は45万Gだ。150万Gを手にするためには、お前が借金するべきは500万Gだ」
「そ、それでいい!」
「よし、貸そう」
隼人が150万Gを渡すと、〈ルシカ〉リーダーは走って出て行った。
そのあと、ライラが窘めるようにして言った。
「いまのは、ちょっとやりすぎね。敵が増えるわよ」
「そうだな。次から気をつけよう」
こうして、ヤミ金ギルドのはじめての認可金納入日は、終わりを迎えた。