魔術師ルカ
ルカは惨劇を見回した。5人の憲兵の死体が転がっている。
「どうしてくれるのさ、こんなに殺して」
「おい、1人を殺したのはお前だ」
隼人は、ダイナモの死体を指差した。
「おれは、ダイナモから情報収集しようとしていたんだ。どうしてくれる?」
ルカは笑った。
「なら、ボクから聞き出すといいよ」
隼人は、ルカを見やった。ルカのステータスを見る。HP・攻撃力・防御力・敏捷性・運、これらの4項目は低い。一般民なみだ。だがMPの数値が、4万3705もある。HPならまだしも、MPが万単位とは。
「魔術師だけはあるな」
ルカは微笑んだ。
「キミこそ凄いね。初期設定で、すべてのステータスが『∞』なんだからさ」
「おれのステータスを見たのか? 当然だな。魔術師なら、『ステータスを見る』魔法は使えて当然か」
隼人は一考した。この魔術師ルカは、アルギナに転移してはじめて出会った『強敵』かもしれない。
だとしても、倒せないわけではない。だが、できればルカとは戦いたくなかった。理由は単純だ。ルカを仲間に取り込めれば、良い人材になる。
「お前──」
隼人の言葉を遮るようにして、ルカが言った。
「キミの仲間になれ、って?」
隼人は顔をしかめた。
「読心の魔法か」
「そんな魔法は必要ないよ。魔術師は、相手の考えを読むのが得意なのさ」
隼人は苦笑した。
「考えを読まれるとは、ギルド・マスターとして恥ずかしいかぎりだ。キミがすごく良い人材なのもので、ついな」
隼人は一拍置いてから、聞いた。
「で、答えは?」
「仲間になるか、って? いや、いまはやめておくよ。キミだけを見るなら、凄まじいよ。すべてのステータスが『∞』なんて、はじめて見た。だけど、キミのギルド。ヤミ金ギルドだっけ? まだまだ弱小ギルドじゃないか。ボクほどの魔術師が所属するものじゃない」
ルカの言うことは正しい。
ヤミ金ギルドは、いつかは天下を取るギルドだ。だが、いまはまだ弱小ギルドにすぎない。
隼人はうなずいた。
「それは残念だ」
「もっとヤミ金ギルドが凄いことになったら、あらためて誘ってよ」
「そうしよう。ところで──」
隼人は、憲兵の死体を見回した。
「これ、どうしたものかな?」
「ボクが魔法で片付けておくよ」
「片付ける?」
「肉片ひとつ残さずに消しておく、ということさ」
「それは助かる。だが、問題はまだある。まず、キミだ。おれのことを、王族に報告するのか?」
「王族? ああ、ボクたちを動かしていたのが王族だと思っているんだね?」
「違うのか?」
〈大王宮〉の憲兵団が動いているので、命令しているのは王族と思っていたが。
「宰相ビルドという男が、ボクたちを極秘に動かしていたのさ」
「宰相の狙いは、なんだ?」
「セーラだよ。王族の娘さ。キミのギルドが匿っているよね」
やはり、セーラだったか。宰相は、なにが狙いでセーラを狙っているのか? 少なくとも、保護するつもりはないように思える。
「宰相はすでに知っているのか? ヤミ金ギルドが、セーラを匿っていると?」
ルカは首を横に振った。
「まだだよ。どうして、憲兵たちが知ったと思う? セーラが、ヤミ金ギルドに匿われていることを?」
「君の探索魔法だな? 君ほどの魔術師なら難しいことではなかった」
ルカはうなずいた。
「そして、ボクはまだヤミ金ギルドのことを宰相には伝えていない。セーラを捕縛してから事後報告でいい、と思っていたからね」
「で、いまはどうなんだ? 宰相ビルドに伝えるのか?」
ルカは首を横に振った。
「やめておくよ。キミに殺されちゃたまらない。それにボクは期待しているんだよ」
「期待?」
「ヤミ金ギルドが、ボクの転職先になることを」
それだけ言うと、ルカは消えた。瞬間移動の魔法か。追跡することも不可能ではないが、さすがに難しい。
いまはルカの言葉を信じることにした。
隼人は溜息をついた。
「魔術師とは、厄介だな」