憲兵団との闘い
憲兵長は速かった。敏捷性はライラ以上か。
憲兵長はブロード・ソードを一閃させ、隼人を腰のところで真っ二つにした。ブロード・ソードの刃は魔法で強化されていた。そこに憲兵長自身の攻撃力も加味された。その一撃は、たとえ防御力1000でも防御しきれず、8000近くのHPを削り取っただろう。
いずれにせよ、HP/防御力ともに『∞』である隼人には、関係のない話だが。
憲兵長は、ブロード・ソードを鞘に収めた。腰のところで真っ二つにされた隼人の死体を見下ろす。
憲兵長が言った。
「殺してしまったか。ダイナモ、この死体を回収しろ。そして魔術師ルカを呼べ。まだ脳が腐る前に、記憶を読み取らせる」
隼人は憲兵長の後ろに立って、言った。
「そうか。殺してしまってどうするのかと思ったが、死体から記憶を読み取ることもできるのか。魔法はなんでもありか」
憲兵長がギョッとした顔で、隼人のほうを振り返った。さらに憲兵長は、五体満足の隼人を見て、顔を青ざめさせる。
憲兵長がチラッと、足元に転がっている隼人の死体(真っ二つにされている)を見た。
「ど、どういうことだ?」
「わからないか? 5秒前、おれは2つの魔法を同時に発動した。まず、偽物の『隼人』を作った。お前が真っ二つにして喜んでいたのは、この偽物だ。さらに、本物のおれは、不可視の魔法で姿を消した。で、お前の後ろまで回りこんだ」
隼人は、憲兵長の腹部を殴った。攻撃力『∞』のパンチを、本気で。憲兵長は防御力も高かったが、隼人の『∞』の攻撃力には勝てるはずもなかった。そして憲兵長の万超えのHPは、一瞬で0になった。
隼人に殴られた憲兵長は吹き飛び、仰向けに倒れた。腹部が粉砕した。
隼人は言った。
「もう死んだのか? 憲兵長といっても、骨がないな」
「貴様ぁぁぁ!」
まわりにいた4名の憲兵が、怒声を上げて攻撃してきた。突然の展開で、いままで固まっていたのだ。
隼人は叱りつけるように言った。
「憲兵というのだから、どんな事態にも素早く対応できなくてはダメだろ。それなのに、数秒も行動不能になっているとは。まぁ、憲兵長が瞬殺されたので、ショックだったのはわかる。だが、それが命取りだ」
4名の憲兵のうち、3名が爆死した。
隼人は、憲兵長を殴ったとき、すでに次の魔法を発動していたのだ。対象を爆発させる魔法攻撃。これを憲兵3名にかけておいた。それによって、いま3名は爆死した。
残った最後の憲兵が、惚けた顔でまわりを見回した。先ほどまで生きていた仲間が、いまや死体と化している。
隼人は溜息をついた。憲兵といっても、この程度か。
「おい、なにを惚けているんだ?」
隼人は、火炎の弾を投擲した。火炎の弾は、憲兵の右足に命中。憲兵の右足を吹き飛ばした。
「うぁぁぁぁ!」
「お前、憲兵長がダイナモと呼びかけていたな。名前は、ダイナモでいいのか?」
ダイナモは倒れた。砕けた右足を見て叫ぶ。
「た、助けてくれ!」
「聞いてくれ、ダイナモ。『死体から記憶を読み取る』魔法が見つからない」
隼人は、『死体から記憶を読み取る』という便利な魔法を、検索にかけていた。
だが、見つからない。手元の魔法リストにはないようだ。
「そこで魔術師ルカとやらから、じかに会って教えてもらいたい」
『死体から記憶を読み取る』魔法は、手元にあれば重宝するだろう。
「ルカには、どこに行けば会えるんだ?」
ダイナモは泣き叫ぶだけだった。
「し、死にたくない! た、助けて!」
隼人は顔をしかめた。
「右足が吹き飛んだ程度では、死んだりしない」
「それなら頭部が吹き飛んだら、どうかな?」
という声が、隼人の後ろからした。とたん、ダイナモの頭部が爆裂した。
隼人はニヤッと笑った。
「まったく気配を感じなかった」
後ろを振り返る。すると、10メートルほど先に、人がいた。少女だ。13歳くらい。桜色の髪をショートカットにして、紅い瞳をしていた。
そんな彼女は黒いローブを着て、杖を持っていた。杖の先端には、拳大の宝石がはめられている。
隼人は言った。
「お前がルカだな?」
少女はうなずいた。
「そうだよ、ボクが魔術師ルカさ」