第1段階終了
隼人がロリヤに命じたことは、新たなギルド(低位の養殖ギルド)を創設させることだった。
「どうだ? 簡単な内容なうえに、ギルド・マスターになれるんだ。嬉しいだろう?」
「ふ、ふざけるな! 一般民がギルドに入れるか! ましてやギルド・マスターなんかに!」
「そこは心配するな。すでにおれの副官と相談ずみだ。偽造書類を作れば良い。ロリヤ、お前がギルド民だ、と証明できる偽造書類を」
「ご、ごめんだ! 王国に気付かれたら、絞首刑にされる!」
隼人は苦笑した。殺人は自己責任でも、ギルド民と身許を偽れば絞首刑か。
隼人は、ロリヤの顔を蹴飛ばした。ロリヤが倒れる。隼人は、ロリヤの左手(指がすべて切り落とされている)を踏みつけた。
「ぐあぁぁぁぁ!」
「お前に選択肢はないんだ。いや、まて、あるぞ。いまここで、トムズに首を刎ねられるか。それとも、おれの命令に従うか。どっちだ?」
ロリヤは鼻水を垂らしながら言った。
「ほ、ほかに選択肢はないのか?」
「もちろん、ある。いますぐ完済しろ」
ロリヤが逡巡しだしたため、隼人はウンザリした。
「もう、いい。脅しとか抜きにして、もういい。トムズ、マジで殺せ」
「ま、まて──ぐがぁ」
トムズが短剣の刃を、ロリヤの咽に突き刺した。トムズが短剣を引き抜くと、ロリヤの咽から血が迸った。
隼人は血を浴びない位置から、言った。
「ほかのカモどもが、もう少し賢いといいがな」
「部下に死体を片付け、血をふき取らせます」
「待て。いまからライラが、ホポスを連れてくる。ホポスに、気の毒なロリヤを見せてやろう」
5分後、ライラがホポスを連れてきた。
ホポスはロリヤの死体を見て、悲鳴を上げた。
「こ、これは、どういうことだ!」
隼人は軽く言った。
「借りたカネを返さないクズは、こうなるんだ」
ホポスは腰を抜かせた。見ると、漏らしている。
隼人は舌打ちした。
「おれのギルド拠点で漏らすとはな」
「いい度胸だな!」
トムズが、ホポスを蹴飛ばし、何度も殴りつける。
「おいトムズ、もうよせ。お前、自分がレベル78なのを忘れるな。かなり手加減しているのはわかるが、それでもホポスが死にかけている」
一般民にもステータスはある。隼人は魔法を使って、ホポスのステータスを確認してみた。レベル1で、HPは47だ。そのHPがすでに2になっている。
トムズが困惑して言った。
「スライムさえ倒せないほど手加減したのですが」
「ホポスはスライム以下らしい。こいつにはまだ死なれちゃ困るな」
隼人は、治癒魔法を検索した。治癒魔法ともなると十種類以上あった。そのなかで、いちばん低劣な治癒魔法を、ホポスに使った。
ホポスが命を取りとめたところで、隼人は言った。
「カネがないのなら、命令に従え。お前はこれから、低位の養殖ギルドのギルド・マスターとなる。そのための偽造書類はもう作ってある。あとは手続きしにいくだけだ」
ライラが言った。
「マスター。ホポスが偽造書類を怪しまれ、憲兵団に捕まったとします。すると、ホポスは我々の命令で動いていた、と口を割るでしょう」
「一般民をギルド民と偽らせたら、どのていどの罪だ?」
「最悪、ヤミ金ギルドが取り潰されるかと」
「なるほど」
隼人は、ある魔法を検索した。やがて見つけた。ホポスに歩み寄り、右手をかざす。呪文を唱える。
ホポスの額に小さな魔法陣が刻まれた。
隼人は言った。
「ホポス、いまのは口封じの魔法だ。ヤミ金ギルドのことを明かそうとすれば、お前は爆発する」
ホポスが悲鳴を上げた。
ライラが言った。
「ヤミ金ギルドのことを明かす前に、必ず爆発するのですか?」
隼人はうなずいた。
「そうだ。だから、ホポスからヤミ金ギルドのことが露見される心配はない。ただホポス。死にたくなければ、口を割ろうとはしないことだな」
ホポスが、死に物狂いでうなずいた。
「ではホポス。さっそく行ってこい。低位の養殖ギルドを作ってくるんだ」
ホポスが慌てて、ヤミ金ギルドを出て行った。
「トムズ、遠くからホポスを見張ってきてくれ」
「了解しました」
トムズもホポスを追って、拠点を出て行く。
隼人はライラと目があった。
ライラは微笑んだ。
「まずは第一段階ね」
「ああ。そして、これからだ」