取り立てる①
王国直轄にして、ギルドを抜きにすれば、唯一武器を持つことを許された組織・憲兵団。
それが浮遊島にある〈大王宮〉(王族の住い)から降りてきた。それも〈ギルド宮〉にやって来たという。だとすればタイミングからしても、セーラと無関係ということはないだろう。
問題はセーラを保護しにきたのか、それとも捕縛しにきたのか。
隼人は、ふと考えた。最悪のシナリオでは、憲兵団とヤミ金ギルドの戦争になりかねない。
「憲兵団というのは強いのか?」
「憲兵になるには、資格があるの。レベルが99以上でなければならないのよ」
隼人はここでいったん本題から逸れる質問をした。
「ところで、レベルは99で打ち止めなのか?」
「ふしぎなことに、レベルの表示は99までしかされないの。でも、実際は、もっと上があるわよ。たとえば、ここに2人の戦士がいるとするわね。2人とも表示を見ると、同じレベル99。でも戦士Aは実力もレベル99。一方、戦士Bはレベル130くらいの実力者、というこが起こりえるわ」
「同じレベル99だったら、どっちが強いか、どう見分ければいいんだ?」
「レベル以外のステータスね。とくにHPと攻撃力がわかりやすいわ。絶対に、戦士Bは戦士Aよりも、HPと攻撃力が上回っているはずだから」
隼人は本題に戻ることにした。
「憲兵団の目的、ちょっと探ってみてくれないか。それと憲兵団の狙いがハッキリするまで、セーラには黙っていよう」
ライラはうなずいた。
「そのつもりよ。あの子、迷惑をかけたくないから、とか言って、勝手に出て行きそうだもの。けど、ハヤト。もしも、憲兵団がセーラを捕まえに来たのだとしたら、どうするの?」
「突き出す、という選択肢はない。だから、セーラがヤミ金ギルドにいることを気取られないことだ。それが一番だ」
「でも万が一、匿っていることがバレたら?」
「おれが責任をもって、憲兵団を皆殺しにする」
隼人は、あえて『皆殺し』という言い方をした。憲兵団とやりあうことになったら、それくらいの覚悟が必要だろう。隼人は、その覚悟があることをライラに伝えようとした。
ライラは隼人の覚悟を理解した。
「そのときは、わたしも協力するわ。ヤミ金ギルドが王国そのものと戦争するときは、ね」
王国そのもの、か。憲兵団を攻撃するということは、王国と戦争するということか。
隼人は頭をかいた。最終的には、王国を潰すのも有りだ。だが、展開が早すぎるところはある。いまはまだ王国に喧嘩を売るときではない。
「最悪の展開を予測するのは重要だが、もういいだろ。憲兵団は別の目的で来たのかもしれない。実際にセーラが狙いでも、ヤミ金ギルドにいることを見つからなければいい」
「それに、セーラを保護しに来ただけかもしれないしね」
「そこは注意しなくてはいけない。セーラを保護しにきたのなら、無事に憲兵団に送りとどける義務がある。それでセーラも安心だ。だがセーラを捕まえにきた、それどころか口封じに殺しにきたというのなら」
「その可能性も、なくはないわね」
「なにがあってもセーラを渡すわけにはいかない」
「当然ね」
はじめこそセーラに冷たく接していたライラだが、いまではセーラを守ることに賛成してくれていた。
「じゃ、ライラ。ホポスを連れてきてくれ。ヤミ金ギルドにとって、もっとも大事な仕事をするとしよう」
「了解、ボス」
ライラを見送ってから、隼人は一考した。いろいろなことが同時進行で動いている。だが最後には、隼人の望む終わりかたをするはずだ。『運』が∞なのは伊達ではない。
隼人は、ヤミ金ギルドの拠点②(元・警備ギルドの拠点)へと移動した。拠点①にはセーラがいるためだ。これからの仕事は、セーラの前ではできない。
やがて、トムズがロリヤを連れてきた。ロリヤは顔に痣を作っていた。トムズに殴られたようだ。
トムズが隼人に報告した。
「ロリヤは逃げようとしました」
「逃げようとした? おい、トムズ。お前、さては、ヤミ金ギルドの使いだということをはじめに話さなかったな?」
そんな凡ミスをトムズはしない。ロリヤは取り立てが来たと知って、逃げ出したのだ。だが、隼人はわざとこういう持っていきかたをした。
トムズも承知しているらしく、面白そうな顔で言った。
「いいえ。私はちゃんと、『ヤミ金ギルドの使いだ』と宣言しました。貸したカネの回収にきたのだ、と」
「なら、こういうことだろう。ロリヤはカネを取りに、自宅へと急いだんだ。借りたカネと、5割の利子。これ完済するために。トムズ、それをお前は早とちりした。逃げた、と思ってしまったんだ。トムズ、なんでもすぐに決め付けるのが、お前の悪い癖だ」
トムズはニヤッと笑った。
「面目がないです、ボス」
「ロリヤ。トムズのことは許してやってくれ。トムズは知らなかったんだ。お前が、良心的な借主だということを。カネが返せなくなったからといって、逃げるような卑怯者ではないことを」
隼人とトムズが会話しているあいだ、ロリヤは顔を蒼白にしていた。
隼人は続けた。
「さ、ロリヤ。カネを返してくれ。利子を含めて。お前ならできるだろ?」
ロリヤは顔を上げて、隼人を見た。
「す、すいません。いま文無しなんです。ですから、あと10日だけ待ってください。10日後には、完済してみせますから」
「さらに10日後に完済? なるほど。しかし、カネを用立てる方策はあるのか? ああ、わかった。さては賭博か? 一発当てようというわけか。だがロリヤ、お前はいま文無しのはず。賭博するにも軍資金が必要だが」
隼人は親しみをこめて笑った。
「さては、さらにカネを貸してほしいんだな?」
隼人の提案に、ロリヤは飛びついてきた。
「貸してくれるんですね! 後悔はさせません!」
さっそくカネを受け取ろうと、ロリヤが両手を差し出してきた。
隼人は冷ややかにロリヤを見た。それからトムズに命じた。
「トムズ」
「はい」
「ロリヤの右腕をへし折れ」