認可金強奪の計画が進行する
隼人は、少なからず動揺していた。はからずも、同世代の異性と同棲することとなったことに。
ライラに「不純異性交遊をしないように」と釘を刺されるまでもなく、セーラになにかするつもりはなかった。
それは、セーラは純情なので、傷つけたくはなかったからだ。
隼人は、早々にソファベッドを購入した。これで寝台をセーラに差し出しても、夜は床で寝なくてすむ。
そして、翌日。
昼過ぎ。隼人はライラと盗賊ギルドの選び方を議論していた。すると来客があった。コシオという男で、カネを借りたいという。
「ホポスから話を聞いたんだ。ここに来れば、ギャンブルのためのカネを貸してくれる、と」
隼人は答えた。
「厳密に言えば、ギャンブル用というわけではないがな。カネを貸してやるのは本当だ。ところで、ホポスから利子のことは聞いたか?」
「ああ」
隼人は、コシオを値踏みした。少なくとも借りる時点から、踏み倒すつもりではないようだ。
隼人はコシオに追跡の魔法をかけてから、カネを貸した。
ライラか貸付帳簿に記入していると、また来客があった。
隼人は言った。
「また、新しい顧客がカネを借りにきたようだ」
ライラがうなずいた。
「これが口コミ、というものね。この調子でいけば、放っておいても身代りギルドの構成員を見繕えるわね」
「そのようだ」
こうして日々は過ぎていった。
日中、隼人はライラと盗賊ギルドの選定に時間を使った。夜は、セーラから〈大王宮〉の話を聞いた。
セーラはよく口を滑らせた。王族の身分として、物語ってしまうのだ。だが隼人は指摘することなく無視した。
そうして、賭博場でカモを引っかけてから、10日が経った。すでに雇うべき盗賊ギルドは決まっていた。あとは身代りギルドを立ち上げるだけだ。
「ライラ、それとトムズ」
今回はトムズも呼んだ。これまで、トムズとその部下たちには待機してもらっていた。そろそろ彼らにも動いてもらうときがきた。
「ホポスとロリヤを連れてきてくれ。連中の居場所は、いま教える」
追跡の魔法をかけてあるため、ホポスとロリヤの居場所はわかっていた。二人の現在位置を、ライラとトムズに教える。トムズには、担当するロリヤの人相も教えた。
トムズはすぐに出発したが、ライラは残った。難しい顔をしている。なにかあったようだ。
隼人は、セーラのほうを見やった。セーラは、書物を読んでいる。このまえ、ライラが古書ギルドから何冊か買ってきたものだ。ライラは首を横に振った。セーラには聞かせないほうが良い、ということか。
「セーラ、ちょっとライラと行ってくるから、待っていてくれ」
「いってらっしゃい」
セーラに見送られて、隼人とライラは外の通路に出た。
隼人が尋ねる。
「どうした?」
「わたしの、暗殺ギルド時代からの情報網だけど」
この情報網は、盗賊ギルド選定のときにも役立ってくれた。
「ああ」
「じつはこの情報網から、気になるネタが入ったのよ。憲兵団が降りてきたって」
「そうか。まず1つ聞く。『降りてきた』?」
「そっか。ハヤトには〈大王宮〉がどこにあるのか話していなかったわね。けど、セーラから聞いてないの? 〈大王宮〉からどうやって逃げてきたか、セーラは話さなかった?」
「そこの部分は濁しているんだ。きっと逃げるときに協力者がいて、その協力者のことは隠しておきたいんだろう」
ライラはうなずいた。「ま、そんなところでしょうね。とにかく、〈大王宮〉というのはココにはないのよ」
「ココ?」
「地上には、ということね。〈大王宮〉は空中にあるの。浮遊島の上に、ね」
浮遊島という発想は、じつに『剣と魔法』の世界らしい、と隼人は思った。
「浮遊島なんて見たことがない。こっちに転移してからも、空は見上げているつもりなんだが」
「〈大王宮〉のある浮遊島は、3カ月の周期で、オウス王国の上空を巡っているのよ。いまは、〈ギルド宮〉からは見えない位置にあるのね。そのうち、〈ギルド宮〉からでも見られるところまで移動してくるわよ」
「すると、セーラは空の上にある〈大王宮〉から降りてきたのか。さらに〈ギルド宮〉まで地上を移動してきた、ということになる。なぜなら、いま〈ギルド宮〉の近くには、〈大王宮〉の浮遊島はないんだからな」
「もしくは、〈ギルド宮〉の上に〈大王宮〉があるときに降りてきて、しばらくのあいだは別のギルドに匿われていた、とか」
隼人はうなずいた。いろいろなことが考えられるのか。
「で、憲兵団というのはなんだ?」
「王族を守るために存在する兵団よ。平時において、武器を持てるのは、ギルドを別にすれば憲兵団だけよ。もちろん、戦争でも起きれば、ギルド民・一般民関係なく剣を手に取ることになるでしょうけど」
王族を守る憲兵団が降りてきた。
「奴らはどこにいるんだ?」
「先日、〈ギルド宮〉に来たようよ」
隼人はうなずいた。
「セーラを捜しにきた、か」