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セーラの身の上②


「わたしは〈大王宮〉で生まれました。しかし、ある事情から〈大王宮〉を逃げ出したのです」


「〈大王宮〉か」


 隼人は、ライラに目配せした。『話したいことがある』と。


「いきなり話の腰を折ってしまって悪いが、ちょっと待ってくれ。君が〈大王宮〉の出だったという情報を、ライラと2人で分析したい」


「わかりました。わたしも突然、こんなことを明かす形になってしまって申しわけないです」

 そう言うセーラは、本当に申しわけなさそうな顔をした。


「いや、気にすることはない。おれたちが無理に聞きだそうとしたんだから」


 隼人は、ライラとともにセーラから離れた。セーラに声が聞こえないところで、隼人は小声で言った。


「〈大王宮〉とはなんだ? だいたいは名称から想像はつくんだが」


「王族たちの住む場所よ。厳密に言うと、1割の王族に、9割のその他(王家の魔術師、護衛、使用人など)ね」


「王族とは何人いるものなんだ?」


「たくさんいるわよ。初代国王の息子だけで80人近くいたとされるし。それというのも、あのころ王は何人でも妻を娶ることができたからね。たしか初代王の妻は37人いたとされるわ」


「子供が80人とは。初代王だけあって、いろいろと凄かったな」


「この80人の第2世代の王子が全員、3人ずつ子供を持ったとしたら、どう? で、またその子供が3人ずつ増やしていったら──ちなみに、いまは第7世代よ」


「ネズミ算式に増えていくな。それで話を戻すが、セーラはさっき『自分は王族です』と言ったのか?」


「待って。そう決め付けるのは早計よ。さっき言ったように、〈大王宮〉にいるほとんどは王族ではない人たちよ」


「セーラは〈大王宮〉で生まれた、と言っていたじゃないか」


「だからといって、王族とは限らないわよ。〈大王宮〉付けの使用人の男女が結ばれ、子を成すことはよくある話よ。その子も成長したら、〈大王宮〉付けの使用人になるわ」


「だけど、ただの使用人が『〈大王宮〉から逃げてきた』という表現をするか?」


「〈大王宮〉で法に反した、とか」


「反する? 国家反逆罪のようなものか?」


「ハヤト、本人が目の前にいるのだから、直接尋ねてみたら?」


「それもそうか」


 隼人はまず、『人の嘘を見抜けられる』魔法の検索をかけた。検索にヒットしたので、呪文が視界に浮かぶ。

 隼人は、小声でその呪文を詠唱した。


 隼人はセーラのもとまで戻り、尋ねた。

「セーラ、ひとつ確認させてくれ。君は、王族なのか?」


 セーラは視線を泳がせた。それから隼人とは目をあわせられぬまま、答えた。


「い、い、いいえ。わたしは、あ、あの、〈大王宮〉付け使用人の娘です。わたしも、使用人の見習いでした」


 隼人は、「わかった」と、うなずいた。

 これは魔法を使うまでもなかった。『人の嘘を見抜く』魔法の結果を見ずとも、セーラが嘘をついているのは確実だ。


 隼人は、ライラとまた目配せした。

『いまはライラが嘘をついたことを無視しよう』


 ライラは納得していないようだが、うなずいた。


 隼人は、セーラに言った。

「君が、〈大王宮〉生まれの使用人の娘であることはわかった。じゃあ、よければ聞かせてくれ。どうして〈大王宮〉から逃げ出す必要があったんだ?」


 セーラは身分を偽ったのだから、逃げ出した理由も、正直には話せられないだろう。

 だが、隼人はいま、『セーラは使用人の娘』という話を信じたことになっている。形だけでも、逃げ出した理由を聞いておかねば。


 ところが、セーラは迷うことなく答えた。

「殺人を目撃してしまったのです」


 殺人を目撃した。


 これなら身分を偽っていても、正直に答えられたか。

 また、それはただの殺人ではないだろう。王族の娘(実際は)のセーラが、逃げざるをえないほどの殺人。


「王族の1人が、べつの王族を殺したのか?」


「はい。それで、わたし、あの──」


 ライラが助け舟を出した。

「あなたは身の危険を感じ、逃げてきたのね? 王族による王族殺し。それを使用人の娘が目撃してしまったのだから。殺人犯の王族に、口封じで殺されかねないもの」


 殺人を目撃した。それをセーラは正直に話した。そこをライラは評価したのだろう。


 セーラはうなずいた。

「はい、そうです」


 隼人はふと思った。

 王族の中にも、力の順位はあるだろう。殺人犯の王族が上位にいて、セーラの地位が底辺だったとしたら? 

 いくら王族のセーラでも、口封じされかねない。


 隼人は尋ねた。

「王族の誰が殺人犯なのか。それを教えてくれるか?」


 セーラは目を伏せた。

「いえ、それは……わたしが迂闊なことを言ってしまっては、ハヤトさんたちにご迷惑をおかけしてしまいます」


 殺人犯の王族の名前を知っていれば、隼人たちの身も危なくなる、ということか。

 だがセーラを匿った時点で、すでにヤミ金ギルドの身は危うくなっているのだが。

 そのことを、隼人は言わないでおくことにした。


 殺人犯の王族のことも、いまはいいだろう。しかし、いつかはセーラから聞き出そう。

 うまく利用すれば、ヤミ金ギルドにとってプラスになる。むろん、危ない橋ではある。

 だが、最終的にヤミ金ギルドは、王国を相手取る。そのときの『武器』になるかもしれない。


 隼人は、ギルド・マスターとして制定を下した。

「セーラ、君はしばらくヤミ金ギルドにいるといい。状況が、どうなるのか見極めるまでは。おれとライラは歓迎する」


 セーラは顔を輝かせた。

「ありがとうございます!」


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