画策する③
ライラの言う『下請け』とは、盗賊ギルドのことだった。
盗賊ギルドというものがあると知って、隼人は考えた。
この世界には、他者から『盗む』ことは市民権を得ているのに、他者から『カネを借りる』という文化はないのか。
「盗賊ギルドを使う。これには、いくつか問題点がある」
「わかっているわ。盗みに入った盗賊ギルド員が、捕まってしまうケースね。どこのギルドから依頼されたのか、口を割ってしまうかもしれない。すると、ヤミ金ギルドが認可金の強奪を画策した、と知れ渡ってしまう」
「ああ」
ライラは肩をすくめた。
「そうね。そこの解決策はまだ考えていないわ」
だが盗賊ギルドがあるのなら、下請けには丁度よいか。
隼人は考えを口にした。
「盗賊ギルドが、依頼してきたのがヤミ金ギルドと知らなかったら? 盗みに入った盗賊ギルド員が捕まっても、依頼者を知らないんだ。口の割りようがない」
「どうやるの?」
隼人は考えながら話した。
「ヤミ金ギルドの、身代わりとなるギルドを作る。その身代わりギルドに、盗賊ギルドへ依頼させる。盗賊ギルドからは、ヤミ金ギルドのことは一切知らせない」
「他のギルドから認可金強奪のことで追求されたときは、その身代りギルドを切り捨てればいいわけね。そうやって、ヤミ金ギルドは守られるわけね」
「問題は、この身代りギルドをどうやって作るか、だ」
認可金の納入日まで、残り19日だ。時間の余裕はないが。
「依頼する盗賊ギルドの見極めも必要ね。信用が置けるかどうか」
「盗賊ギルドに信用もなにもないと思うが」
「けど、その盗賊ギルドによっては、依頼者をすぐ『売る』かもしれないわ。売られるのは身代りギルドだけど、ハヤトの計画は頓挫するわよ」
隼人はうなずいた。
複数のギルドから認可金を盗む、という危険な依頼だ。盗賊ギルドは、依頼してきたギルドの情報を売ってしまうほうが、安全に稼げる。
「すると、どういう盗賊ギルドが理想なんだ?」
「もちろん高位の盗賊ギルドね。依頼してきたギルドを『売った』と知れ渡れば、評判に傷がつく。それを恐れるのが、高位のギルド。逆に、低位の盗賊ギルドでは、評判なんて気にしないわ」
「高位の盗賊ギルドともなれば、評判こそ命だからな」
だが、そうなると、さらなる問題が持ち上がる。
「高位ギルドだ。依頼料は高いだろうな」
「ええ、高いわね」
「仕方ない。身代りギルドが完成するまでに、盗賊ギルドの依頼料も工面するとしよう」
「ところで、いくつのギルドから認可金を奪いたいの?」
「認可金を奪われたギルド全部が、ヤミ金ギルドにカネを借りにくるわけではない。だから、最低でも30だ。30の盗賊ギルドの認可金を奪いたい。そうすれば20前後のギルドが、ヤミ金ギルドの顧客になるはずだ」
ライラは腕組みして、なにやら考え込んでいた。やがて、言った。
「ねえ、ハヤト。この計画、根本的に欠点があるわよ。仮に20のギルドが、認可金をヤミ金ギルドに借りにくるとするわよね? だけど、どうやって貸すの? 貿易ギルドから奪った分では、とうてい足りないわよ。貸付金はどうするの?」
「ライラ、お前にしては抜けているな。20のギルドが認可金を借りにきたとき、ヤミ金ギルドの〈神の宝物庫〉はどうなっているか。考えてみろ」
「どういう──」
ライラはそこでハッとした様子。
隼人を一瞬だけ恐れるように見てから、微笑んだ。
「そうだったわね。20のギルドが認可金を借りにきたとき、〈神の宝物庫〉には、30のギルドから奪った認可金があるものね。盗んだカネを、何食わぬ顔で貸そうというわけね」
「それも高金利で貸すんだ」
ライラは小首を傾げた。
「その高金利というものだけど。詳しくは説明してもらってないわね」
「たとえば、利息がトイチだとする。これで計算すると、100万Gを借りたら、10日目には10万Gの利子が発生する。このまま返済せずに20日目になると、さらに利子が発生し、借金は121万Gとなる」
「そんな非常識な取り決めで、お金を借りるギルドなんかあるの?」
「普通ならないだろうな。だが、考えてみろ。認可金を奪われたギルドには、ほかに選択肢がない。納入日に認可金を払えなければ、自分たちのギルドが消滅してしまうんだからな」
「究極の選択というわけね。だけど、そんな高金利で貸したりして、ヤミ金ギルドの悪い評判が広まらないかしら?」
その点は、隼人も懸念材料ではあった。
ヤミ金が、どういう風に受け取られるのか。
日本でもヤミ金は嫌悪されていたし、警察の取り締まりの対象でもあった。それでもヤミ金がなくならなかったのは、それを必要とする連中がいたからだ。たとえば、隼人のような。
オウス王国では、いままでヤミ金は必要なかったのかもしれない。
だが、これからは違う。
「いま言えることは、やってみなければわからないということだ」
ライラはしばし一考してから、決心したようにうなずいた。
「いいわ。では、身代りギルドを作ることからはじめましょうか」
「だが、どうするかな。身代りギルドのギルド・マスターは、生贄の役回りだ。誰が、そんな損な役回りをやってくれるか?」
ライラが悪戯っぽく微笑んだ。
「ねぇ。いまこそ、ヤミ金ギルドの真骨頂を発揮するべきときではない?」