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画策する②

 

 ギルド拠点に戻って、隼人は寝台が1つしかないことを思い出した。

 寝台のサイズはダブルといって良かったので、セーラと並んで眠ることもできる(そしてセーラは拒否しないように思えた)。

 だが、隼人はその考えをすぐに振り払った。仮に、セーラとそういう仲になるとしても、気が早すぎる。会って15分の相手だ。


「おれは床で眠るから、君は寝台で寝てくれ」


 セーラは必死な様子で両手を振った。

「そ、そんなことできません! ただでさえご迷惑をおかけしているのに! わたしが床の上に寝ます!」


「おれは大丈夫だから。君が寝台に寝ろよ」


「ハヤトさんが、わたしのことを気にかけてくださるのは嬉しいです。では、わたしは寝台の端っこのところで、寝ます。これならハヤトさんは普段どおり、寝台をお使いできます」


 普段どおり、というが、美少女をベッドの端っこで寝かせたことはない。

 これでは埒があかないので、隼人はセーラに睡眠の魔法をかけた。眠りに落ちたセーラが、隼人のほうに倒れかかる。

 隼人はセーラを抱きとめた。セーラからは、柑橘系の香りがした。


 隼人はセーラを抱き上げて、寝台に寝かせた。

 ついで隼人は『硬質なものを柔らかくする』魔法を検索。当てはまる魔法があったので、床に対して使用する。床がマットレスのように柔らかくなったところで、横になった。

 目を閉じる。


 セーラの寝息が聞こえる。手を伸ばせば届くところに、美少女が寝ているのか。そう考えると、どうにも眠れそうになかった。

 そこで、隼人は自分に睡眠魔法をかけた。ようやく睡魔が訪れる。


 目覚める。

 ヤミ金ギルドの拠点の前(つまり、通路)に人がいるようだ。それで目覚めたらしい。隼人は奇襲に備え、無意識に防御シールドを張っていた。

 隼人は、苦笑しながら起き上がった。


『魔法扉』が開いて、ライラが入室してきた。隼人がとっさに反応した相手は、ライラだったのだ。

 ライラは昨日とは違う軽装鎧を着ていた。昨日の鎧は、返り血で汚れたからか。

「おはよう、ギルド・マスター」


「おはよう。いま何時だ?」


 感覚的には、朝の7時30分というところだが。ライラの腰には道具袋が吊り下げられていた。

 ライラは、道具袋から懐中時計を取り出して、時刻を確かめた。

「7時47分ね」

 それからライラは懐中時計を、隼人に放った。

「それ、あげるわ。異世界転移のお祝いに」


 隼人は懐中時計を受け取った。素人目に見ると、すごく高そうだ。

「こんな高価そうなもの、もらっていいのか?」


「父の形見だけど、あなたに持っていてほしいわ」


「え、形見だって? そんな大切なものはもらえないよ」


 隼人が慌ててそう言うと、ライラは微笑んだ。


「嘘よ。今朝〈ギルド宮〉に来る前、市場で購入したものよ。時計職人のギルドが出店していたの。たいした値段ではなかったわ」


 懐中時計には、細かい傷がたくさんある。ライラは中古を購入したのか、市場で買ったという話が嘘なのか。そのうち真実を聞けるだろう。

 隼人は懐中時計をポケットに入れた。

「ありがとう。大事にするよ」


「それはそうと」

 ライラは、隼人の後ろへと視線を向けた。寝台で眠るセーラへと。

「異世界転移早々に、女の子を連れ込んだの? やるわね」


「あいにく、違うんだ」

 隼人は、昨夜のことを話した。


 ライラはうなずいた。

「訳ありな少女を連れ込んだ、というわけね。ヤミ金ギルドにマイナスに働かなければいいけど」


「いまさら言ってもはじまらない」


「にしても、セーラという子、熟睡しているわね」


「じつは睡眠の魔法をかけたんだ。10時間はぐっすり眠り続けるタイプだ。まだ数時間は寝ているはずだ」


「目覚めない少女を襲わなかったなんて、ハヤトもなかなかの自制心の持ち主ね」


 自分に睡眠魔法をかけたことを、隼人は黙っていることにした。

「話は変わるが。ヤミ金ギルドの今後について、計画を立ててみたんだ。聞いてくれるか?」


「ええ。サブ・マスターとして傾聴するわ」


 隼人とライラは椅子に座って、向き合った。


 隼人は、二通りの戦略を話した。


① ヤミ金ギルドの仕業とは気取られず、複数のギルドの認可金を盗む(認可金の納入日の直前に)。

 そうすれば、被害にあった複数ギルドは、急いで認可金を工面しなければならない。たとえヤミ金ギルドから、高利子でカネを借りることになったとしても。


② ギャンブル中毒者を、カモにする。


 すべて話してから、最後に隼人は言った。

「どう思う?」


「そうね。まず①の計画は短期的なもので、②の計画は長期的なもの、という感じね。とくに①の計画は、一度しか使えない手だわ」


 隼人はうなずいた。

「ああ。毎回、納入日ギリギリで認可金が盗まれては、ヤミ金ギルドの関与が疑われるのは避けられない。だが、一度で充分なんだ。ヤミ金から一度でもカネを借りれば、ほとんどの債務者は泥沼にはまることになる」


「では問題は、誰が認可金を盗むのか、ということね」


「ヤミ金ギルドの者には、手を汚させたくない。なにか手があるか?」


 ライラは微笑んだ。

「その仕事、下請けに出しましょう」



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