画策する
隼人はライラの案内で、中位の家具ギルド拠点へと向った。
家具ギルド拠点内には、売物の家具類が並べられていて、まさしく店舗の様相だった。
「ちなみに、この手のギルドのほとんどは、市街地にも店舗を持っているわ。拠点だけで販売していたら、ギルド民しかお客にならないもの」
「たしかにギルド民より、一般民のほうが多いわけだからな」
隼人は、手ごろな値段の机/椅子(ライラ用も入れて2脚)/寝台を購入した。
「次は運送ギルドね。購入した家具の運送を頼みましょう」
「いや、その必要はない」
隼人は、購入した家具類に右手をかざした。視界に浮かぶ呪文を唱えると、家具類が浮かび上がった。
隼人が歩き出すと、家具類もついてくる。
ヤミ金ギルドに戻ると、ライラが言った。
「あたしも今日は帰るわね。明日から、ヤミ金ギルドを頑張りましょう」
隼人は考える。カネ貸しという文化のないオウス王国で、どこまでヤミ金が受け入れられるのか。
隼人は自分のケースを考えた。借金の泥沼にはまった原因は、ギャンブルだ。オウス王国にはギャンブルはあるのだろうか。
そこのところも、明日、調べてみるとしよう。
「じゃ、ライラ。今日はありがとう。明日からもよろしくな」
ライラが帰ったあと、隼人は寝台に寝転がった。
いろいろと興味深い1日だった。異世界への転移もそうだが、自分の性格の変異。これが面白い。
もしかするとステータスをすべて最上値にしたため、性格などにも影響を与えたのかもしれない。こちらの性格のほうが、楽で良いが。
隼人は目をつむった。深い眠りに落ちる。
寝ながらも、ヤミ金ギルドの成功にはどうすれば良いか、隼人は考えていた。重要なのは、顧客を大量につかむこと。さらに顧客を、高利息によって泥沼に突き落とすこと。そのためには──。
隼人は目覚めた。まだ深夜だ。
素晴らしい閃きを得たが、まずやることがあった。
隼人は室内を見回した。トイレが隠れているかと思ったが、その様子はない。どうやら低位ギルドは、トイレも共同らしい。
ヤミ金ギルドの拠点を出る。
通路を歩きながら、夜のうちに思いついた計画を検討する。
ヤミ金ギルドを展開するため、顧客を大量に獲得することが必要だ。
ヤミ金という仕組みがない以上、ライバルはいない。それはメリットだろう。よって、ヤミ金というものをオウス国民に理解させ、必要とさせれば。入れ食い状態だ。
そうなると、隼人のヤミ金ギルドを真似してくるギルドも出てくるだろう。その手のギルドは潰しても良いし、取り込んでさらなる勢力拡大に利用してもよい。
大事なのはスタートの仕方だ。
ギャンブルを利用するのも良い。オウス王国にギャンブルもなかったら、まずギャンブルを根付かせるか。
だが、もっと良い手がある。
認可金制度を利用するのだ。どのギルドも、毎月25日には認可金を払わねばならない。もしも、その認可金が、各々のギルドの金庫から消失してしまったら? それも25日の直前に、だ。
認可金を失ったギルドは、急遽、金策に走るしかない。
つまり、借りるのだ、ヤミ金に。
では認可金を消してしまうには、どうするか?
ヤミ金ギルド自体が動いて強奪して行っては、ダメだ。それでは敵を増やすだけ。最悪、被害にあったギルド連中が結託して、ヤミ金ギルドを潰しにくるかもしれない。
そういった連中は、隼人が返り討ちにしても良い。だが、そんなことをしていては、いっこうに勢力は拡大できない。
認可金の消失にヤミ金ギルドが関わっている、と知られてはいけない。そのために必要なのは──。
悲鳴が聞こえた。
隼人は悲鳴のするほうへと早足で進んだ。
すると、少女が数人の男たちに襲われているのが見えた。
少女は14、15歳。銀髪を長く伸ばした、スレンダーな肢体の娘だ。いまは、暴漢たちに衣服を剥ぎ取られそうになっている。
隼人は呆れた。どこの世界にもアホはいるのか。
どうするか? アルギナに転移した自分は、安い正義感を振りかざすキャラではない。
そのとき、隼人の直感が教えてきた。
このイベントは『運』が『∞』だからこそ起こったのではないか? 少女との出会いになにか意味があるのか?
隼人は、少女と暴漢たちのほうへと歩いて行った。