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どん底からの異世界転移

 大学生の沢崎隼人は人生に絶望していた。


 どうしてこんな目にあうのか。


 はじまりは1年前、大学の友人の紹介で、裏カジノ店に足を運んだときだ。ギャンブルに素人だった隼人だが、1日で十万円も買った。

 だがこれはカジノ店の罠だったのだ。

 はじめは勝たせておいて、それで中毒性を植えつける。それから身包みをはぐ。隼人もまんまと騙されてしまった。


 それからは毎日のように裏カジノ店に通った。当然ながら、二日目以降は負け続けた。負けるたび、次こそ勝たねばと焦る。


 貯金が底をついたので、学生ローンを利用した。『授業でノートパソコンを使う』と理由を述べたところ、あっさりと審査が通った。だが、ギャンブルでの負けは続く。返済が滞ったため、追加で借りることもできなくなった。


 すると、カジノ店のオーナーが、お金に困っているのなら良いところを紹介する、と言ってきた。

 闇金融、すなわち、ヤミ金だ。

 ただし、オーナーは『ヤミ金』という物騒な言葉は使わなかった。かわりに『親切な金融業者』と言った。


 なにが親切なものか。

 だがギャンブル漬けの隼人に、正常な判断ができるはずもなかった。隼人は、紹介されたヤミ金からまで金を借りることになった。


 いまならわかる。あのヤミ金は、カジノ店に紹介料を払っているのだろう。カジノ店は、ギャンブル漬けを大量生産して、そういったヤミ金に送り込んでいる。負の連鎖にとらわれた隼人は、すぐに借金で首が回らなくなった。


 ヤミ金に手を出す前から借金額はすごいことになっていたが、ヤミ金での借金がとどめとなった。

 隼人が借りたヤミ金はトサン(十日で3割の利息)という高利息だった。だが噂に聞けば、トゴ(十日で5割)やトナナ(十日で7割)もあるというのだから、まだマシなほうだったのだろう。


 ヤミ金には天引きというものがある。

 たとえば、10万円借りるとする。だが実際に渡してくれるのは、7万円だけだ。3割の三万円を、金利手数料として取られる(トサンなので3割だ)。

 そして十日後に返すときは、金利分もこみで13万円を返さねばならない(つまり、金利手数料とこみで、実際には16万円も返すことになる)。


 ヤミ金から借金しても、隼人はギャンブルを続けた。そんな隼人は、利息だけ払えば返済期限を延長できる、『ジャンプ』というシステムを利用するしかなかった。

 なぜならヤミ金の完済とは、元金+利息を一括で返すことなのだ。隼人のような多重債務者が元利金をまとめて返せるわけもない。


 あるとき、ヤミ金の連中がアパートの前で待っていた。一見、彼らはどこにでもいるサラリーマンに見えた。隼人は彼らに連れられて、ヤミ金の事務所まで行った。拒否することは不可能だった。


 事務所では、3時間ほど拘束された。暴力を振るわれることも、怒鳴られることさえなかった。ただ諭すように言われただけだ。『借りたカネを返すのは道理だろう。それに反するとは、どういうつもりだ』という内容を。

 これが無性に怖かった。隼人は恐怖で歯の根があわなかった。


 このままでは、ヤミ金は両親に息子の借金を返せと迫るだろう。

 すると、隼人がギャンブル漬けの多重債務者になっているのが知られてしまう。それはごめんだ。なんとか、一発で大きく当てるしかない。


 そんなとき、隼人はある話を聞いた。それは都市伝説の類だ。ネットにあるという、特殊なギャンブル・サイト。

 勝てば好きなだけお金が儲けられるが、負ければ命を取られる。

 眉唾だろう。ネットなのに、どうして命を取られたりするのか。だが藁をもすがる思いの隼人は、パソコンに飛びついた。


 くだんのギャンブル・サイトは、『求める者のもとに現われる』らしい。

 いまどこの誰よりも求める者、それは自分だ。隼人はそう信じて、疑わなかった。そして、ネットに接続するなり、そのサイトは現われた。


 ディスプレイには、『冒険の書をはじめますか?』とバカにしたような文字が出る。その下に『はい』『いいえ』の選択があった。

 隼人にはなぜか、これこそが例のギャンブル・サイトだと、わかった。

 隼人は迷わず『はい』をクリックした。


 すると、ステータス選択画面なるものが開いた。


 隼人は、オンラインRPGに偽装した違法なギャンブル・サイトと解釈した。

 ステータス選択画面によると、HP、MP、攻撃力、防御力、敏捷性、運の6項目があった。そのどれもが、任意で設定できるようだ。

 自分の好きに設定できるのなら、最高値にするに決まっている。すべての項目を最高値にすると、『∞』表示となった。


 そのあとでレベル項目が新たに現われた。レベル項目も『∞』とある。どうやら、ステータス数値を反映して、レベルは自動で決まるようだ。

 

 隼人が、すべての項目(HP、MP、攻撃力、防御力、敏捷性、運)を『∞』にしたため、レベルも『∞』となったか。こんなチート設定でゲームをしても楽しくはないだろう。

 だが隼人はゲームをする気はなかった。このステータス表示も、賭けの画面へ行くまえの目晦ましだろう。


 ステータス画面には、まだ設定する項目があった。

 ギルドだ。

 ギルドの隣は、文字を打ち込めるようになっていた。自分で好きに決めていいようだ。隼人は一考した。ギルドとは、職業のようなものか。


 隼人は、入力した。『ヤミ金』と。


 ありえない高利息で、弱者から金を搾り取る連中。借金している身として、これほど憎い奴らはいない。

だが、奴らの立場になったらどうだろうか。債務者たちをいじめて、搾り取るだけ金を搾り取る。

 それは楽しいだろう。


 隼人は苦笑した。

「なにくだらないことを、一生懸命、考えているんだか」


 隼人は『ステータス登録の終了ボタン』をクリックした。


 とたん、隼人の意識が途切れた。



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