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第三話 推理物なら容疑者は三人

第三話です。きな臭くなってきました。

巽がアニメ化の事実に気付いたのは中学二年生の時だった。当時巽は卓球部に所属しており、時に楽しく、時に厳しくをモットーに取り組んでいた。当然だがそこまで強いチームではないが巽はそれでも充実を感じていた。


異変に気付いたのは五月ごろのことだった。転校生として紹介された人物に違和感を覚えた。


(髪が……黄色い?)


まるでハリネズミのように逆立つ黄色の髪をもった同級生。どうにも馴染まない違和感を感じた。ただ最初はそこまで気にしていたわけではなかった。


そんなハリネズミな同級生は卓球部に入ってきた。入部した時の開口一番


「全国に行く!」


と宣言し周りをポカーンとさせていた。最初はだれも本気にはしてなかった。しかし、あることをきっかけに状況が一変する。


「カミナリサーブ!」


掛け声とともに雷のようなものをまとったボールがサーブされる。これを見て同級生たちは変わった。みんな我こそはと練習に励むようになっていった。そこにかつての卓球部はもうなかった。


本来であればこちらの方がよかったのかもしれない。しかし、巽にそれを受け入れることはできなかった。嫌になって部活に行かなくなった後もハリネズミな同級生には何度も戻ってきてくれと頼み込まれたこともある。だがもう熱意がなくなっていた巽にはその言葉は届くことはなかった。


巽が抜けた卓球部だったが彼らは快進撃を続けた。ついに三年の大会で全国大会への切符をつかむ直前まで進んだのだ。しかし、決勝戦で強豪校に僅差で敗北。全国への夢はかなわなかった。


自分があの場にいたら貢献できただろうかと巽は今でも思う。たらればを言ってもしょうがないことも理解している。思えばハリネズミな同級生の頼みを断っていた時点で道は大きく変わっていたのだろう。呼び戻しに来る展開はスポーツ漫画などではお約束の展開だ。だが、それを巽は拒否した。そのころから薄々思ってはいたが何かに引っ張られるような感覚を感じることがあった。部に戻れば展開としては好ましいものだったが巽は反抗の道を選んだ。


その結果巽はアニメ化の影響を受けなくなった。同時に『負けフラグを立てている人間の心』を聞くことができるようなっていることが分かったのだ。


この力はある意味ちゃぶ台返しに近い。正直かっこいいものではないのだ。生えてきた雑草を抜くのが主人公ならば巽の場合はその雑草が出る場所ごとつぶすという感じだ。欠点として負けフラグ限定であること、範囲に限りがあることという点はあるものの、先日の誘拐事件のように脳が考えている段階で行動を見抜くことのできる力ではある。相手側の脳が体に命令を伝達する前に行動を先読みできるのだ。


ただ実際のところ、アニメ化が進んだ人間はそれくらい平然とこなすので下位互換的能力である点は事実だ。


さて、巽はそういった事情から聞き込みには向いている。相手が負けフラグ的なことをしていれば耳に届きやすいのだ。といっても実際のところはそうもいかない。覗きをしようとしていた男子生徒の声が聞こえたこともあったため、一時期はノイローゼになりかけたが今はどうにか向き合っている。


「さて、聞き込みお疲れ様。何か情報は得られたかな? じゃあまずは巽君から」


一時間ほど聞き込みを行った後生徒会室に集まる三人。各々の持ち帰った情報を整理する。


「俺の方はさっぱりでした。昨日は移動教室もなかったので朝の時間帯かと思ったんですが……調理室の周りは人通りが少ないですから。しいて成果を上げるなら柔道部の生徒が大槻さんがトイレに行くのを見たそうです。少なくとも、毒を入れるタイミングはあったかもしれません」

「なるほど、調理の最中に席を外したならあり得るか。どれくらいの時間かわかるかい?」

「たぶんと言っていましたが八時ごろだそうです」

「入れるタイミングはあった。それがわかったのは収穫だろう。次に狗子君、何か分かったことはあったかい?」

「私の方は少しだけ成果はあった。これぐらいの時間に調理室を窺う男子を見たやつがいる。学ランだったからっていう安直なところからけどな。遠かったから顔はわからないそうだ」

「少なくとも学ランを着た何者かが調理室付近にいた不審人物だということか……」


トラが情報をホワイトボードに整理する。八時頃の空白と不審人物の存在。これが果たしてつながっているのか。


「その不審人物はいつごろ目撃されていたんだろうか」

「うーん……正確にはわからないが八時前とは言っていたぞ。朝の放送を担当する放送委員だったからな」


その情報をさらにホワイトボードに書き加える。朝の放送の開始時刻、八時五分を加えて整理する。


「最後に僕が入手した情報だ。大槻さんが鍵をもらったのは七時半ごろ。鍵を返しに来たのは八時半前だ。都合一時間で調理していたことになるね」

「割と早いですね。下ごしらえとか済ませていたんでしょうか」

「たぶん済ませていたんだろうね。ちなみにわざわざ学校で作っているのは両親に台所に立つことを禁止されたからのようだ」

((少なくとも両親は子供がメシマズという認識はあるのか……))


トラはこほんと一呼吸おいて話を続ける。


「さて巽君、昨日の君のクラスは移動教室はなかったんだよね?」

「はい、午前中は教室での授業でした」

「となるとだ。休み時間などに入れた可能性は低い。仮に大槻さんが席をはずしていてもクラス内にある弁当に毒を仕掛ける人間はいないだろう」


トラは一時間目から四時間目のところにバツ印をつける。。


「そうなると必然的に朝の時間に入れたことになる。ここで重要になるのが先生との会話だ」

「先生との会話?」

「朝方に生徒が調理室を使うのはそう例がない。必ず事情を聴くだろう」

「確かに……」

「そこで彼女はこう答えたそうだ。『好きな人のために弁当を作ると』」

「あれ? 昨日は男子生徒(一真)のためにと言ってませんでしたっけ?」


巽が昨日の説明との矛盾に引っ掛かりを覚えた。


「受け取り方の問題だよ。対応した先生は大槻さんの所属する茶道部の先生でその先生は好きな人の対象を知っていた。一方で男子生徒はそれを知らない。最初に先生に事情を聞いた時には自分の主観で答えてしまっていたようだ」

「男子生徒のうわさは好きな人のためにが変化した結果ってことか……」

「そうなるね。となると真犯人はこの話を直接耳にした可能性が高い。特にこの時間にだ」


トラは七時半のところに赤で大きく丸をつけた。


「つまりその場大槻さんが鍵をもらう状況に居合わせた人間が犯人……ということですか?」

「移動教室の関係から噂が広まるのを聞いてからでは犯行に至るのは無理だというのは証明済み。となると残るはそこしかない。まだ毒の入手経路の点があるから疑問が解消したわけではないけどね」


「となると次にやるべきことは……」

「その時間帯に職員室来ていた奴のリストアップだな! 鍵の持ち出しには名前書かないといけない。職員室で聞けば出てきそうだ」


                  ○

「三人ですか……。これまたアニメみたいな話ですね……」

「ははは……確かにぼやきたくもなるね。こうも都合よく揃うと」


昼休みの生徒会室。狗子が手に入れた情報にアニメ臭さを感じながらも情報を吟味していく。


「一人目は清水泰広。体育祭の実行委員で二年生。持ち出した鍵は体育倉庫。時間は七時半で返却は八時十分」

「二人目が真屋剛。柔道部の部員で一年生。持ち出しは挌技場の鍵。時間は七時半から八時三十分」

「三人目が水澤礼人。美術部で三年生。持ち出しは美術室の鍵。時間は七時半から八時二十分」


巽の読み上げに合わせて狗子が写真を一枚ずつつくえに乗せていく。


「そのうえで、こいつら全員に共通しているのが……」


そう言って狗子が写真をもう一枚置く。


「大槻に告白して全員が玉砕しているということ」

「少なくとも動機は十分とみて間違いないでしょう」

「そうですね。となるとやっぱり問題なのは毒の方ですか……」


出所のわからない毒のありかを突き止めないとまた凶行に走るかもしれないという思いが彼らの中にあった。


「特に僕らと同類が犯行を起こすなら厄介なことになる。この世界は筋書き以外の横やりに非常に弱い」


アニメ化に影響されない人間というのはいわゆるイレギュラーな存在にあたる。そのためこれが特に主人公のような人間に悪意が及ぼされると世界自体がねじ曲がってしまい崩壊することもありうる。


「何としても早く見つけ出さないと……」


……ちなみにだがこんな深刻な話をしている最中、ウサギはほとんど寝るか食べるか転がるぐらいしかしていないことは補足しておきたい。

なんだかまるで推理小説みたいだ。容疑者が都合よく三人の元ネタは言うまでもなく二十年ぐらい小学生やってる探偵から。

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