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第二話 見た目がやばい弁当を作る女子

続きました。よかったです。

アニメ化の現象の影響を受けない人間は実は結構いる。といってもせいぜい100人いて1人いるぐらいの割合のため少数であることに変わりはない。全校生徒700人ほどで確認できている影響を受けない人間が巽などの4人のみのこの学校は割と少ないほうにあたる。また、影響を受けていない人物は何かしらの力を発現させていることが多い。ただし巽のような一部に限ったテレパスのようにかなり限定的なものが多い。


そのため彼らは彼らはこの世界で主人公になることはあり得ない。彼らを超えるような力の持ち主は多数いる。五年前に起きた組織設立のきっかけになった魔法使いの大決戦の際にも彼らができたことと言えば避難誘導の迅速化と魔法使いたちが壊せないぐらい遠くの地にあった制御装置を物理的にぶっ壊すことぐらいだ。


こういった人々はアニメ化の特有のノリというものについていけない者も多い。ある意味で彼らは社会不適合者でもあった。


たとえば、そうこんな感じに。


すでに秋の深まる学校。もうじき体育祭の時期に近付きつつあるこの日の昼休み、少し事件が起きた。


「ねぇ……一真、助けてくれたお礼にお弁当作ってきたんだけど食べてくれる? 今日は栗の炊き込みご飯なんだ」


巽のクラスにいる誘拐された例のピンク髪の少女が優しそうな少年に弁当を差しだす。昨日の御礼らしいが……なぜか弁当からはなんか不穏な空気が立ち上っている。ここまで書けばおわかりだろうが、この少女、料理が下手だ。こんな時、周りはというと……


「くそっ……一真の野郎!」

「大槻さんの手作りだと!? あの野郎……」


大体の男子がこんな反応を示す。だが巽はというと……


(死人が出かねないもの作るなよな。調理室の炊飯器の故障とシンクのへこみの件から予想はしていたけど)


部長に死人が出かねない件を報告。保健室の準備をしてもらう。こうしたアニメ化した人間が周りに被害を広げないようにする下支えこそが彼らの仕事であった。同時にそれに冷めた視線を向けてしまうことも多々ある。


案の定弁当を死ぬ気一口食べた優しげな男子生徒は泡を吹いて倒れ、巽が保健室に連れていくことになった。


                ○

「ということがあったんですよ」

「……まったく、バイオテロって言われても納得するよそれは」


事のあらましを聞いた狗子はあきれながらも納得した表情を見せる。正直なところよくあることではあるがなぜ毒物のような料理ができるのかは彼らもよくわかってはいない。


「それにしてもここ、本当にただのマンションですよね。外側は」

「中は結構手を加えているけどな。地下に造るのは金がかかりすぎてNGだったらしい」


彼らがいるのは高校と同じ市内にある三階建ての小さなマンション。その一室に彼らはいた。ここは組織が買い上げて支部として使っている。ちなみに組織に名前は特になく、なんとなく組織と呼んでいたらそれが定着したそうだ。


一方ウサギはけだるそうにお菓子をかじっている。リスのようだが巽としてはあまり可愛いとは思わない。


「みんな、待たせたね」

「会長……と支部長。お疲れ様です」

「お疲れートラ会長と軍曹」

「狗子君、その呼び名はやめたまえ。もう二十年も前のことだからな」


巽に支部長、狗子に軍曹と呼ばれた男性は身長180センチ以上あり濃いひげをたくわえたダンディーという言葉がよく似合う人物であった。かつては自衛隊に所属していたことから狗子は勝手に軍曹と呼んでいる。ただ実際にそうだったのかはわかってはいない。


「全員そろっているな。今日緊急に集まってもらったのはこれについてだ」


部屋が暗くなり、代わりにに出てきたプロジェクターには今日巽は見た覚えのあるものが映し出されていた。


「これって……今日の毒物入り弁当……」

「こいつがどうかしたのか?」

「…………」


二人が普通に反応する一方、ウサギは興味なく暗闇の中でも明かりを頼りにお菓子をかじっていた。


「こいつを保健の先生から回収した。弁当の中身が碌でもないものであったというのは知っていると思うが、問題はこれだ」


軍曹が弁当の一部を拡大する。映っているのは弁当の中に入っていたぶどうだ。


「ぶどう? これがどうしたんですか?」

「こいつに毒が塗られていた」


一瞬で空気が緊迫したものになるのを巽は感じていた。


「毒というと弁当のものが付着した……というものではないんですよね?」

「ああ、弁当から検出されたのは硫酸とかの化学物質だ。もちろんこれも毒ではあるがそれとは違う種類のもの。それもかなり強力だ。詳しい説明は省くが少量で死に至るぐらいのものだ」


「……そんなものを仕掛けた人間がいると?」

「ああ、俺はそう見ている。しかも男子生徒に恨みのある人間が」

「なぜわかるんですか?」


軍曹の見立てに疑問を持った巽がそう尋ねる。イマイチつながらないと思ったからだ。その質問にはトラ会長が答えた。


「今日の朝、職員室にピンク髪の女の子……大槻さんが調理室の鍵を借りに来た時に先生に一真君のために作るといっていたそうだ。それがどう伝わったのか学校内で大槻さんが男子のために弁当を作っているという噂が流れていたらしい」

「つまり男子のために弁当を作っていると知っていたから彼女目当てではなく男子生徒の方を狙ったということですか……」

「それもあるけどもう一つ理由がある」

「もうひとつ?」


今の理由でも十分納得できていた巽だったがまだ理由はあるという。不思議に思っている巽をよそに話を続ける。


「君もしっていると思うが大槻さんは学校で人気が高い。一年から三年までかなり告白した人間は多い。その際に彼女はこう断っている。『他に好きな人がいる』とね」

「それってつまり……」

「あの彼がいなくなってだれが得をすると考えられるか。当然そういった告白した男子たちだよね。もしかしたら女子かもしれないけど。とにかく傷心の彼女に近づいて物にしようとしても不思議じゃない……よね?」

「そっか……やっぱりトラ会長はすごいですね。凡人の俺では思いつきそうにもないです」


そんなことを考えたこともなかった。巽はそう思う。情報を整理して形にするということは苦手だしトラウマもある。それをできるということに純粋な賞賛と自虐を込めてそう言った。


「僕もそんなに優秀でもないよ。上には上がいる。確かにこの中では異質だというのは認めるけどね」

「……まぁトラの推理はいいとしてだ。未遂とはいっても明確な殺意がある。アニメ化の人間を警察が調べるのは難しい。協力は頼んでいるがな。もしかしたらだがまだ見つかっていない同類がいる可能性もある」

「それはつまり影響を受けてない人間ってことか?」

「それも考えられる。影響が解けるときは一瞬だからな。そういうことも考えられる」


その言葉に全員が少し押し黙る。巽も過去を少し思い出して顔がこわばっていた。


「……すまん、余計なことを思い出させてしまったな。とにかくだ。そうなってくるとどうにかできるのは我々だけだ。全力で取り組んでほしい」

「はい!」

「……了解」

「はいよー!」

「わかりました」


               ○

「仮に毒を仕込んだ場合、やはり何らかの形でこっそり弁当に毒を仕込んだということになりますね」

「そうだね。朝の始業前に弁当を作り昼休みまでの間、他の人間が弁当に触れた可能性は考えておくべきだろう」


翌日早朝、まだ部活の生徒がまばらに登校している時間に彼らは集まっていた。ピンク髪の大槻さんが弁当という名の生物兵器を作っていたのもこの時間だったのでその再現という意味もある。ただし集まっているのは巽とトラ会長と狗子の三人のみ。ウサギは朝に弱いため来ていない。


「先生に聞いてみたけど食材は持ち込みだね。事前に用意してたんでしょ。そもそも学校の調理室に普段食材の用意はしてないから当然だけど」

「となると聞き込みかな。どうにか毒殺なんてことが起きないようには努めたいけど……それができないのが僕たちの歯がゆいところなんだよね……」

「そうですね……俺も身に覚えがあります」

「といって何もしないのはもっと良くない。じゃあ行こうか。この時間だし部活の生徒を当たれば何か情報が得られるかもしれないな」


各自聞き込みのために校内に向かう。巽はトラ会長の言った自分の歯がゆい思いを少し思い出していた。

群像劇で進めていく予定です。しばらくは主人公のターン。

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