〈 エンドロールの後のアレ的な何か 〉
「あ~……生き返る~……」
思わず、僕はうっとりとした声を上げた。ついこの前、隣町の商店街まで買い物に行った際に当たったんだよね、〈リゾートホテルに一週間ご招待〉が。
ペアご招待だったら迷わずスナコさんを誘ってたんだけれど、残念ながらご招待枠は一人だけ。お金を支払えばペアで泊めてもらえるかなと考えもしたんだけれど……。何ていうの? たまには一人でのんびりするのも良いかなって。
だって、ご飯はビュッフェ食べ放題ってチケットに書いてあったんだよ。これ、スナコさんを誘ったら二日と経たないうちにホテルから追い出されるでしょ。あの人、絶対に、他の人の取り分とか気にせずに際限なく食べるでしょ。――自分の彼女に対してこんなこと言うのもどうかと思うけれど、正直、スナコさんの食い意地はハンパない。今後、それが原因で何か起きるに決まっている。例えば、お兄さんに彼女が出来たとして、バレンタインとかに何か貰ったりして、それと気づかずに全部食べちゃって紛争に発展するとか。そういうこと、絶対にないとは言い切れない。
それだと、折角の一週間ご招待が勿体無い。だから、スナコさんには悪いけれど、僕は「ちょっと実家に帰るね」と嘘をついて一人でリゾートホテルにやって来た。そして僕は今、アロマオイルトリートメントとやらを受けている。最高級オーガニックオイルを使用していて、アロマも一流品だそうだ。だからかな、とてつもなくいい香りがして、気持ちも最高にいい。
「お加減は如何ですか?」
「あ、はい。とてもいい塩梅です」
セラピストのお姉さんにそう答えると、僕は満足気な吐息を吐いた。と同時に、バタンという〈まるでドアを蹴破ったような音〉が部屋に響いた。セラピストのお姉さんがヒッと小さく悲鳴を上げたけれど、僕には日常茶飯事だ。だから、大したことはない。――いや、待てよ。普通はそれって、非日常じゃあないか。スナコさんといつも一緒にいるおかげで、感覚がおかしくなっているのかな。
僕はゆっくりと俯かせていた顔を上げてドアの方を見てみた。するとそこにはギンコさんとキタさんを引き連れた完全武装のスナコさんが立っていて、僕のことを愕然とした表情で見つめていた。
僕は慌てて起き上がると、下半身にかけてあったバスタオルをひったくるように手に取り、全身をそれで包んだ。いくら紙パンツを穿いているとはいえ、なんか恥ずかしかったのだ。そして僕は、目を白黒とさせてパニックを起こした。
「えっ、なんで!? なんでスナコさんがここに!? もしかして、嘘ついたのがバレちゃったの!? ていうか、だからって完全武装って!」
スナコさんは、なおも口をあんぐりと開けて僕を呆然と見つめていた。そんなスナコさんに、ギンコさんが呆れ口調で「ねえ、ダーリンって拉致られてたんじゃあなかったの?」と声をかけた。――えええ!? 僕が拉致られてるって!?
スナコさんは心なしか怒っているような表情で、ズンズンと僕に近づいてきた。そして無言のまま、僕の頭をペシッとひと叩きした。
コヤッとした人達は何故か馬鹿力が多いから、スナコさんはどんなことがあっても僕に手を挙げない。そのスナコさんに、きちんと手加減されているとはいえ、僕は初めて叩かれた。もちろん僕は、その事実に愕然とした。
僕が愕然としたまま硬直していると、ギンコさんとキタさんも僕をペチッと叩いてきた。それを皮切りに、彼ら三人はペチペチと僕を叩いてきた。――まるで八つ当たりのように。
そしてスナコさん達は気が済むと「帰るぞ」と呟いて、僕を置き去りにして帰っていった。背中を丸め、ため息をつき、トボトボと去っていく三人を見つめながら、僕は腹の底から叫んだ。
「ええええええ!? どうして!? どうしてこうなった!?」
僕の叫び声が部屋にこだまするのと同時に、外で〈任務達成〉の狼煙が上がるのが見えた。――任務? 何の!? スナコさん達は一体、何の任務についていたわけ!? ホントもう、何がどうして、どうしてこうなったの!?
――fin!――