6.友だち以上、恋人未満(4)
火曜日の朝、保に会わなかった。でも、これは、ある程度予想していた。火・水と木曜日の卒業式当日は、登校時間がいつもと違うからだ。それに、もうすぐ告白するんだもん、今は無理に会わなくてもいい。
水曜日も会わなかった。
卒業式当日。
朝、分かれ道近くにくると、保が向こうの道から現れるのが見えた。今日は、会えた。
まゆが、小走りに走って、すぐに保に追いつくと、いつものように、ふたり並んで歩き出した。いつものように? ん? なんかちょっとカンジが違う。
やっぱり、今日、告白を実行するんだもの、緊張しているんだ。でも、それだけじゃない。保も、なんか、いつもとちょっと違うカンジ。ぎこちない、というか、うわの空というか。
卒業式のことなんかを話しながら歩いていくと、校門が見えてきた。すると、保が急に立ち止った。
「あのさ、まゆ」
「ん、何?」
「今日の昼から、予定とかある?」
え? 保くんに告白する予定ならあるけど……
「え、何で?」
「予定ないんなら、さつき公園に来てくれないかな、と思って」
え、え、え、一体どういうこと???
戸惑うまゆを見て、保があわててつけ加えた。
「ちょっと、話したいことがあって」
「う、うん、いいよ」
保とまゆ、再び歩き出す。
「何時ごろなら大丈夫?」
「え、いつでもいいけど。あ、やっぱり三時ごろ」
まゆの頭の中のシミュレーションでは、噴水にキラキラ光が反射する前で、告白したもんね。まだ、陽が高いうちがいい。
「じゃ、三時にさつき公園で。噴水広場にいるから」
「う、うん」
「じゃ、オレ、先行くわ」
校門をくぐると、保は、足早に玄関のほうに向かっていった。
ど、どういうことだろう、これは?
保も、まゆみたいに、告白する段取りを立てていたんだろうか? 卒業式の日に、さつき公園で?
まゆの頭の中はめちゃくちゃ混乱している。でも、そうとしか考えられない。卒業を機にまゆに告白しようとして、さつき公園を選んだとしか。すぐに恵理子に相談したかったけれど、クラスが違う恵理子に、話をする時間はなかった。
保にあんなことを言われて混乱していたまゆだけど、卒業式の間は意外に落ち着いていた。
卒業式は、とどこおりなく進み、無事終了した。今日で、この学校とも、クラスの仲間ともお別れなんだな、という感慨がまゆを包む。体育館をぐるっと見回し、どこかにいるはずのミコトに向かって、『ミコトさよなら。でも、また会おうね』と、声に出さずに言う。
玄関前の広場では、いつかミコトの記憶で見た、お母さんの卒業式の日と、そう変わらない光景が広がっていた。写真を撮りあったり、別れのあいさつをしたり。春の陽ざしがまぶしく輝いているのも、同じ。
恵理子にはすぐに会えたけれど、ゆっくり話をする状況じゃない。恵理子は、まゆが保に告白することを知っていたから、途中で「言った?」と聞いてきたけど、「そのことはあとで」と返すのが精一杯だ。保のことも見かけたけど、声をかけるのは、ためらわれた。保も、まゆに声をかけてこなかった。
やっとひと段落がつくと、まゆは、お母さんが、手芸部の仲間と写真を撮った場所に、恵理子を引っ張って行った。ほかに誰もいない。
「えーっ、何それ、絶対コクるつもりじゃん」
今朝のことを恵理子に話したあとの、第一声だ。
「やっぱりそうかな」
「そうだよ。わざわざ、呼び出して、話があるっていうんでしょ。他に何の話があるっていうの」
「そうだよね」
「絶対そうだって」
「うん」
恵理子は、まゆに向かって、にっと笑った。
「だけどさ、田辺もまゆと同じこと考えてたなんて、まゆと田辺、すごく気が合うね。運命の赤い糸で結ばれているんじゃないの」
「そ、そうかな」
「ヒューヒュー、まゆったら、真っ赤になってるよ」
「やめてよ、えりちゃん」
まゆ、まんざらでもない。




