エピローグ
それから、数ヶ月がたち、今日は、北高の文化祭だ。まゆと保は、北高のエントランスで、西條さんと綾部さんが来るのを待っていた。
西條さんは、手術の後、順調に回復して、一ヶ月半ほどで退院した。今では、激しい運動をのぞけば、まゆたちと変わらない、普通の生活を送っている。美大合格めざして、がんばる日々だ。
まゆと保は、順調に交際を続けている。ま、相変わらず、保はまゆに振り回されっぱなしだけど。
何度か、恵理子・マーくんカップルとの、ダブルデートもした。来々軒デートは、さすがに断ったけど、四人でファミレスに行ったり、遊園地に行ったり。まゆと保の様子に、マーくんは、
「田辺、そんなんじゃ、この先ずーっと、坂木の尻にしかれっぞ」
保は、
「その言葉、そのまま田上に返すぞ」
それと、保は、今年の高校陸上競技大会の走り幅跳びで、県二位に入った。去年は、ぎりぎり八位入賞だったから、大躍進だ。これは、一応まゆの応援のおかげということになっている。だけど、またも優勝を逃して、まゆに、プレッシャーをかけられている。
「来年は最後のチャンスだね」
「だけどさ、一位のやつ、半端なく強いんだぜ。別格なの。二位でも十分価値があるんだけどなあ」
「だ、か、ら、二位でも、って言ってるうちは」
「はいはい、優勝できません」
西條さんと綾部さんが到着した。
「すごいね、北高の文化祭って。ほら、こんなにビラもらっちゃった」
西條さんは、模擬店やら、イベントやらのビラの束を手にして、興奮気味だ。
「まずは、コンサート行かない? 軽音と合唱部の合同コンサート、もうすぐ始まるから」
まゆの誘いに、西條さんは、
「行く行く」
コンサートを楽しんだあとは、今日のメインイベント、プチ合コン。目下、カレシ募集中の西條さんと綾部さんのために、まゆがセッティングすることにしたんだけど……
いざとなると、まゆも、どうやって合コン相手を探していいかわからない。保は当てにならなくて、結局マーくんに頼むことにした。マーくんは、自信たっぷりに、
「すごくイイヤツが、ちょうどふたりいるぜ」
で、集まったのが、マーくんと同じ野球部のふたり。見るからに野暮ったいし、模擬店とはいえ、オシャレなカフェには似合わない、ガサツな食べっぷり。
「ごめん、ろくなの集められなくて」
謝るまゆに、
「あたし、ああいう素朴な感じの人、キライじゃないよ」
と西條さん。
「ガツガツ食べるのも、男らしくていいと思います」
と、女子校に通う綾部さん。
まあ、性格は、ふたりともいい人そうだしね。これが、いい出会いかどうかは、まだわかんないけど、きっと、より子おばちゃんの言うとおりだよ。前向きに生きていれば、必ずいつか、好きだと思える人に出会えるって。
さて、最後にミコトとのことを言っておかなくちゃね。
西條さんの手術が終わって最初の土曜日、まゆは、久しぶりにミコトに会った。
「まーゆーちゃん、久しぶりー」
案の定、ミコトは、ニタニタして現れた。なんてったって、まゆと保のキスシーンを、二度も見られたんだから。
「ミコト、趣味悪いよ。人のこと、のぞき見するなんて」
「あれっ、そんなこと言うの、今さらだよ。まゆちゃん、ぼくのそういうとこ、わかってるじゃない。それに、わざわざ、あの公園で会ってたし」
「だけどさ……」
強気で反撃してくるミコトに、まゆ、珍しく言葉を返せない。
「でも、ぼく、すごーくうれしいよ。まゆちゃんの想いが、やっと叶ったんだもん」
「うん、ありがと。ミコトは、ずっと、あたしと保くんがうまくいくといいって言ってくれてたもんね」
「うん。ぼく、まゆちゃんと田辺くんが付き合うのが、一番しっくりくる、って感じてたんだ」
「そっか、ミコトにそう言ってもらえると、なんかうれしいよ」
ミコトのうれしそうな顔を見ていると、まゆも、幸せを実感する。
「あっ、そう言えばさ、西條さん、ここで保くんに告白したって、言ってたけど、ミコト見てなかったの?」
「え、あの、それは……」
さっきまでの強気のミコトは消し飛んで、急にアタフタし始める。ははーん、見ていたな。
「西條さんが保くんに告白したこと、なんで、知らない、なんて言ったの?」
まゆの口調に、ますますアタフタするミコト。
「あの、あの、だって、知ってるって言ったら、ここで告白したことも、言わなくちゃいけなくなるでしょ」
「まあ、そうだね」
「そしたらさ、まゆちゃんとぼくが会う場所、ここにしたこと、怒るかなって思って。そんなところで、何でって」
「そうだったんだ……って、あたし、そんなに怒りっぽくないでしょっ」
「ほら、怒ってる」
「あ、ほんとだ」
ミコト、ちょっとニタッとする。
「でもさ、まゆちゃんの怒った顔、かわいいよね」
「え……」
その言葉……ずっと前に、保に言われて舞い上がった言葉……あのときの幸せが、今につながっているんだ……
「もうっ、ミコトったら、からかわないでよね」
そう言いながらも、ミコトへの感謝の思いがあふれてくる。
……ミコト、あたしのこと、ずーっと見守ってくれてありがと。これからも、よろしくね。