表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/34

30.雨のち晴れ(2)

 そうか、保くんが西條さんと付き合うことにしたのは、同情だけじゃなく、好きって気持ちもあったんだね。だけど……

「だけど、オレ、その気持ちを勘違いしてたんだ。人として、友だちとして、西條さんのこと好きだったけど、それは、恋とかそういうんじゃなかった。後でわかったんだけど」

なんだ、自分でも気づいたんだ。

「それで、付き合うことに決めたんだね」

「うん」

「でも、怖くなかったの?」

「え?」

「だって、付き合ってるカノジョが死ぬかもしれないんだよ。そういう覚悟で、付き合うことにしたんでしょ」

「あ、オレ、そういうふうには、考えてみなかったな」

「え?」

「綾部さんに、西條さんは、オレと付き合えば生きる希望を持てる、って言われて、なんか、オレと付き合えば、ほんとに死なないんじゃないか、とかそんなふうに考えてたな。オレって、バカだよな」

「うん」

「おい、否定しないのかよ」

「あたしに、そんな慰め、期待しても無駄って知ってるでしょ」

「そうでした」

西條さんは、保くんが重い選択をしてくれた、って言ってたけど、保くん、もっと単純だったんだ。


「だけど、オレのせいで、オレと西條さん、友だちみたいになっちゃて、こんなふうに変なことになったんだよな」

「え?」

「付き合うことになって最初のころ、実はオレ、西條さんが、手つなぎたそうな、そんな素振りというか、雰囲気を感じることがあったんだ。だけど、オレ、それに応えられなくて、気づかないふりしてた」

「……」

「オレと西條さんは付き合ってるんだし、男として、恋人らしいことしなくちゃ、ってわかってたんだけど、いざそうなると、どうしてもはぐらかしてしまうんだ。それで、オレ、正直言うとさ、そのころは、西條さんと会うのが、気持ち的にキツくなってたんだ。西條さんが、恋人同士らしいことを求めてきたらどうしようって」

 まゆは、結城君と付き合うかどうか決めかねていたとき、お母さんが言ったことを思い出した。『まゆは、正直でまっすぐだから、無理しちゃうんじゃないか』って。保くん、きっと、気持ちを勘違いして付き合うことになって、無理がかかってたんだ。

「だけど、そのうち、気づいたら、西條さんのそういう雰囲気がぜんぜん無くなってて、オレも、普通に西條さんに会えるようになってて。オレさ、オレが恋人らしいこと避けてきたから、西條さんのオレに対する恋心みたいなのが、冷めちゃったと思うんだ」

「うん、あたしも、そうだと思う」

「そうだよな。だけど、そういうのって、傷つくんだろ?」

「うーん、傷ついたかもしれないけど、西條さんの場合は、そんなに深い傷じゃないと思う」

「それって、慰め?」

「違う」

「うん」

「西條さんね、普通に高校に行くみんなのことがうらやましかったって。だから、せめて恋ぐらいしたくて、恋に恋してたかも、って言ってた。それ、ホントだったんだと思う」

「じゃ、誰でもよかったってこと?」

「それは違うよ。好きにならないと、告白なんかできないよ。だけど、保くんじゃないと、っていう想いは、そんなに強くなかったんだと思う」

少なくとも、あたしほどには。

「最初は恋人同士の付き合いを期待してたんだと思うけど、それが、だんだん友だち同士みたいになっても、まあいいか、って受け入れられるほどの想いだったってことじゃないかな。そうじゃなきゃ、西條さん、もっと恋人みたいなこと求めてきて、友だち関係のところに落ち着いたりしなかったと思う」

「そうなのかな」

「ま、あたしの想像だから、ホントのところはどうかわからないけど。たぶん、西條さん自身も、そういう想いの強さなんて、よくわかんないと思うし」

「うん」

「でも、それは、もういいんじゃない。西條さん、友だちとして、保くんといて、楽しかったって言ってたよ。保くんも、友だちとしては、普通に付き合えたんでしょ」

「うん」

「生きる希望なんて大げさなものじゃなくても、綾部さんや保くんみたいに、西條さんに寄り添ってくれる友だちって、きっとすごく大切なものなんだよ」


 さて、ここからが肝心だ。

「保くん」

「何?」

「保くんさ、西條さんに告白されたとき、あたしのこと考えなかったの?」

「え……」

「あたしのこと、わざわざさつき公園に呼び出して、西條さんと付き合うこと報告したんだもん。あたしのこと、気にしてたんだよね」

「……うん。まゆのこと、考えたよ、ものすごく……オレ、まゆのこと好きだったから。ガキのころからずっと」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ