3.友だち以上、恋人未満(1)
まゆの心が、幸せに包まれたあの日……「来年は、まゆのために優勝してやっかなー」って、保が言ってくれたあの日からの話。
まゆと保は、ふたりで登校するようになっていた。と言っても、待ち合わせて登校していたわけではない。まゆが、ちゃんと早起きをして、保に会えるように時間を調節して、家を出るようにしたんだ。
最初は、タイミングがうまく合わなくて、会えない日も多かった。だけど、だんだん出会うタイミングがわかってきて、半月くらいたつと、毎日のようにふたりで登校するようになっていた。
ただそれだけだ。ふたりの関係は、ただそれだけ。
結局、まゆと保は、中学の三年間は、一度も同じクラスにならなかった。委員会や行事でも、一緒になることはなかった。とくに避けていたというわけでもないけれど、そんなわけで、学校でふたりで話をすることは、ほとんどなかった。付き合っていたわけでもないから、外でデートしたことも、もちろんない。
毎日ふたりで登校する、ただそれだけの関係だけど、まゆにとっては、ふたりだけの、その十分足らずの時間が幸せだった。それに、その時間が、ふたりの心の距離をぐっと縮めてくれたと感じている。まゆは、もちろん保のことが好きだったけど、保も、きっとまゆのことを意識してくれている、そう感じることのできる時間だった。
「友だち以上、恋人未満」――この言葉が、そんなふたりの関係には、ぴったりだ。
そんな幸せな時間を、今でも、まゆは、ときどき思い出す。
中三のときの県大会の翌日。
「たしか、前に、次はあたしのために優勝するって、言ったよね」
「やっべ。そんなこと、まだ覚えてんの?」
「で、二位だったのは、どういうわけ?」
「オイオイ、二位でもすごいんだぞ。よくやった、って言ってくれてもいいんじゃねえの」
「あ、それだ。二位でもすごい、って言ってるうちは、優勝できないんだよ」
「うわっ、すんげぇ、鬼コーチ」
まゆ、軽く保をにらんでみせる。保は、ちょっと舌を出す。
「でも、まあいいわ、がんばったんでしょ」
「がんばらないと、後が怖いしな」
「ん? なんだって?」
「いやいや、まゆのためにがんばりましたよ。一応自己新だったし」
「そっか。じゃあ、あたしのために優勝するって言ったけど、できなかったからって、落ち込まなくていいからね」
「ありがと。って、なんで、オレ、まゆにお礼言ってんの」
「ハハハ」「ハハハ」
ふたりで、吹き出した。
「優勝は、高校までお預けだね。高校でも続けるんでしょ、幅跳び」
「そのつもりだけど」
「だったら、がんばってね、また来年」
「おー怖っ」
「ちょっとお」
「ハハハ」「ハハハ」