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28.西條さん(5)

 保くん、あたしのこと、どんなふうに西條さんに話したんだろ。

「田辺くんと、中学のときのこと話したり、北高の話聞いたりしてるときにね、坂木さんの話題になると、田辺くん、はぐらかそうとしたり、話題を変えようとしてるのに、あたし、気づいたの。原口さんのこととかは、相変わらずソフトボールがんばってる、とか、そんなこと話してくれるのに、坂木さんのことは、ぜんぜん話そうとしない」

「……」

「それって、おかしいでしょ。田辺くん、坂木さんのことは友だちだって言ってたけど、友だちなら、普通に話題にできるよね」

「う、うん」

「それで、あたし、田辺くん、坂木さんのことが好きなんじゃないか、少なくとも、中学のときは好きだったんじゃないか、って思えてきたの。なんていうか、カノジョに、元カノの話をしないのと同じで」

「……」

「でね、ある時あたし『田辺くん、中学のとき、よく坂木さんと登校してたけど、どんな話してたの』って聞いてみたの。はぐらかすの難しい質問でしょ。そしたらね、『まゆは、口悪いから、口げんかみたいなことばっかだよ』って」

「……」

「わざと仲悪いふうに答えたつもりだろうけど、逆よね。口悪いって、悪口言ったり、けんかしてるって言ったりしながらも、いつもいっしょに学校行ってるって、それって、すごく仲が良いってことよね。それに、坂木さんのこと、『まゆ』って呼んでた。あたしは、いつも『西條さん』だけど」

「……」

「でね、田辺くんは、坂木さんのことが好きなんだって、確信したんだけど、あたし、そのとき、全然悔しいって気持ちにならなかった。あたしが、邪魔しちゃったんだな、申し訳ないって、ほんとに、そう思ったの。それで、あたしの田辺くんに対する気持ちが、恋心じゃないってこともわかったんだ」

 ほんとにそうなの? まゆは、まっすぐに西條さんを見つめる。西條さんも、まっすぐに、まゆを見つめ返す。


「いつごろ? いつごろそんなふうにわかったの?」

「半年ぐらい前かな」

「半年前……」

「ごめん、それなのに、今ごろになって」

やっぱり、保くんのことが好きなんじゃないの。だから迷ってて……

「田辺くんと、はっきり別れるって言ったら、田辺くんと友だちでいることもできなくなるでしょ。実際の関係は友だち関係でも、始まりは、あたしの告白からだし、友だちでいることはできないと思って。それで、なかなか言い出せなくて」

「……」

「でも、それだけが理由じゃない、って今日わかった」

「え?」

「坂木さんと話して、気づいたの。ううん、心のどこかでは、わかってたんだけど、認めたくなかっただけかも」

「……」

「あたしの身勝手で、ふたりをこんなふうに振り回しているんだよね。あたし、病気であることを利用して、坂木さんから田辺くんを横取りしておいて、田辺くんに対する恋愛感情はないってわかったから、はい返します、って、そういうことしているんだもん。ヒドイよね。そんな身勝手なあたしを指摘されるのが怖くて、今まで、行動を起こせなかったんだよ、きっと」

「そんなこと……」

 西條さんの身勝手を、さっき指摘したのは、まゆ自身だ。だけど、なんか違う。西條さんの自分を責める言葉に、今度は、反論したくなる。

「べつに、あたしと保くん、付き合ってたわけじゃないよ」

「でも、好きだったんでしょ、お互い」

「そうかもしんない。でも、お互いの気持ちを確かめ合ったこともないし。だから、横取りしたっていうのは、間違い」

「……」

「それに、しかたないよ」

「え?」

「前言撤回。恋したいって気持ちは、誰にでもあるもん。その気持ちに、素直に従っただけだよ、西條さんは」

「でも、あたしの勝手で、田辺くんに……」

「決めたのは、保くん自身だよ。断りにくくても、断れなかったわけじゃない」

「うん」

「それに、ありがと」

「え?」

「恋愛感情がないから、別れるってことはあるだろうけど、だからって、元カレと別の女をくっつけようとするなんて、普通しないでしょ。あたしと保くんのこと、気にしてくれたんだよね。ま、西條さんも、バカがつくほどお人好しってことかな」

「ちょっとお」

「ハハ、ごめん」

「あたしね、お人好しなんかじゃないよ。もっとしたたか」

「え?」

「あたし、小さいころから夢があったんだけど、手術を受けたらもっと生きられるってことになって、その夢を現実的に考えられるようになったの。夢を叶えるために、第二の人生を、ちゃんと生きたい。ちゃんと生きるために、自分がやったことに、きちんとけじめをつけておきたいって思って。つまり、これも、自分のためってことだね……あ、坂木さん、そんな顔しないで」

まゆ、ほおをぷくーっとふくらませて、西條さんをにらんでみせる。

「ハハ、冗談。ね、よかったら、西條さんの夢教えてくれない?」

「えっ、うん……あたしね、絵本作家になりたいんだ」

「うわっ、すごい素敵な夢だね。あたしも、絵本好きなんだ」

「そうなの? じゃあ、将来、あたしが絵本出したら、坂木さんにも謹呈します」

「ありがと……じゃあ、その約束のお礼に、罪滅ぼし、させてあげる」

「えっ? それじゃあ」

「うん、保くんと付き合うこと、考えてみる」


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