27.西條さん(4)
「生きるため?」
「そう。あたしね、今度、手術を受けられることになったんだ」
「手術? それで、病気が治るってこと?」
「治る、っていうか、普通に生活できるようにはなれるって。新しい手術方法でね、まだ日本には、数人しか、その手術をできるお医者さんはいないんだけど、あたし、その手術をしてもらえることになったの」
西條さんの目に、光が宿ってみえる。希望の光が。
まゆも、そんな西條さんを見て、ふっと肩の力がぬけた。
なんだ、そうなのか……よかった。ほんとによかった。心からそう思える。どんな縁でも、こうやって言葉を交わした人が、近い将来いなくなる……そんなこと、絶対にあってほしくない。
あれっ、だけど、そのことが、なんで、保くんと別れることにつながるんだろ。
西條さんが、まゆの方に向き直る。
「あたし、まだ肝心なこと、言ってないね」
「肝心なこと?」
「うん。田辺くんとあたしの関係のこと」
「えっ……普通に付き合ってるんだよね」
「付き合ってる、て言えばそうなんだけど、あたしと田辺くんは、恋人同士とかそんなんじゃなくて、友だち同士の付き合いって言ったほうがいいと思う」
「友だち……」
「田辺くんに告白して、田辺くんがそれを受け入れてくれて、最初はあたし、普通の恋人同士のような関係が始まると思ってた」
「……」
「月に二、三回くらいかな、デートみたいなこともしてるし。一緒にご飯食べに行ったり、そこの公民館で本読んだり、ここに来てゲームとかすることもある」
「う、うん」
「だけどね、田辺くん、一度もあたしに触れたことがないんだ。手をつないだこともないの」
「……」
「最初はね、まだ、付き合い始めだから、とか、恥ずかしいのかな、って思ったりしたんだけど、いつまでたっても、そんな雰囲気にならないんだ。好きとか、そんなこと、言われたことも、言ったこともないし。なんていうか、想像していたような恋人同士の関係っていうより、ほんと友だちといるみたいなかんじ。気づいたときには、あたしも、それが普通になってて」
「でも、保くんのこと、好きって……」
「うん、好きだよ。でも、それは、男の人に対するっていうより、ノンのこと好きっていうのと、ほぼ同じっていうか」
ちょっと、今さら何言ってんの。
「でも、好きだから告白したんでしょ」
「うん。あのときは、男の人として好きだったんだと思う……だけど、こんなこと言うと、また坂木さんに怒られるかもしれないけど、あたし、みんなのことがうらやましくて、恋に恋してたってこともあるかもしれない」
西條さん、恐る恐るまゆのほうを見る。
「ほんとに、ごめんなさい」
まゆは、しっかりと、西條さんを見つめ返す。
ほんとに、そうなの? そんなことってあるの? 今さら友だちだなんて……なんか他に理由があって、うそをついてるんじゃないの? まゆの中で、疑いがグルグルと巡る。
その疑問に答えるように、西條さんは、話を続ける。
「前はね、あたしも、自分の気持ちがよくわからなかった。田辺くんと話をしたり、いっしょにゲームしたりしてると楽しいし、ノンと違って、田辺くんはやっぱり男子だし。だから、こういう穏やな気持ちの恋心もあるのかなあ、って。だけど、そうじゃないって、今は、はっきり言える」
西條さんが、まゆをまっすぐに見る。
「田辺くんといろいろ話しているうちにね、あたし、田辺くんは、坂木さんのことが好きなんじゃないかって、思えてきたんだ」
「えっ?」




