25.西條さん(2)
「ごめん、わけわかんないよね」
「うん」
「ちゃんと、最初から説明するね」
「うん」
西條さんは、話し始めた。
「中三のとき、あたし田辺くんと同じクラスだったでしょ」
「うん」
「そのとき、あたし、田辺くんのこといいなって思ってたの。あたし、ほら、病気のせいで、みんな気をつかってくれるんだけど、気をつかわせてるな、って思うことも多くて。だけど、田辺くんは、気をつかってるって思わせないというか、素直に甘えられる雰囲気があって、それで、いいなって」
「うん」
たしかに、保くんはそういう雰囲気ある。
「だけど、最初は付き合いたいとか、そんなふうには思ってなかった。田辺くん、坂木さんと付き合ってるってうわさもあったし」
「え?」
「知らなかったの?」
「うん」
「いつも、一緒に登校してたでしょ」
「それは、そうだけど」
「だけど、みんなが、高校受験で忙しくなってきたころからかな、あたし、なんだか、みんなのことがうらやましくなってきちゃって」
「え?」
「だって、あたし、通信制の高校にするって、決めてたから」
そっか。西條さん、病気のせいで、普通に通学するのが難しいから、通信制にしたんだった。
「今は勉強とか大変でも、高校に行ったら、普通に勉強したり、部活したり、恋もしたりするんだろうなって。あたし、これでも、成績はそんなに悪くなかったんだよ。病気じゃなかったら、北高に行きたかったなあって」
「うん」
「それで、ノンにね、よく、せめて普通に恋ぐらいしたいなあって、愚痴ってたの。あ、ノンて、綾部乃里子。幼稚園のときからの、あたしの親友」
「うん」
綾部さんのことは、中一のとき同じクラスだったから、わりと知っている。小柄でメガネをかけていて、ミコトの記憶で見た、手芸部の横山さんを思い出させる雰囲気だ。
「そしたら、ノンがね、あたしが知らないうちに、田辺くんに、坂木さんと付き合ってるのかって、確かめてくれて。それで、田辺くんが、付き合っていない、坂木さんとは友だちだって、言ってたって」
……そうだよ……何も間違っていない。
「それでも、あたし、告白するか、最後まで迷ったんだけど。結局、あたしだって、一度ぐらい恋したっていいよね、田辺くんに甘えてもいいよね、って」
「……」
「田辺くんが北高に受かったのがわかって、あたし、次の日に、学校の近くの公園まで来てもらって告白したの」
えっ、学校の近くの公園?
「その公園て、もしかして北宮第二公園?」
「えっ、そうだけど」
その公園なら、まゆが、いつもミコトと会っている公園だ。だったら、ミコト、その場を見ている可能性があるよね。でも、たしか、ミコト、西條さんが保くんに告白したのは知らないって……たまたま気づかなかったのかな。
西條さんは、まゆが意外なところで反応したので、ちょっと戸惑っている。
「あ、ごめん。それで?」
「う、うん。そしたらね、田辺くん、すごく戸惑って、困った顔してた。あたしね、フラれるのは覚悟してたつもりなんだけど、その顔見て、急に断られるのが怖くなっちゃって、とっさに、返事は今度聞く、って言っちゃったの」
「え……」
なんか、そのシチュエーション、まゆにも身に覚えがあるような。
「それが、きっと間違いだったんだね。あたしの弱気が」
「えっ? どういうこと?」