23.いざ、西條家へ
五月三日、憲法記念日。
ゴールデンウィークの真っただ中、まゆは、自転車で、西條さんの家に向かっていた。
西條さんの家は、保に聞いている。あの、中央図書館の分室がある公民館の、すぐ近くだ。
せっかくの休みに、なんであたし、一人で西條さんの家に向かってるんだろ。
恵理子に、保から、西條さんの家に行って話をしてほしいと言われた、ということを話すと、さすがに恵理子もポカンとしていた。
「何それ。何の話?」
「あたしも、それ聞いたんだけど、西條さんから話す、って」
「ふうん。ねえ、田辺ってさ、西條さんのこと、西條さん、て呼んでたの?」
「えっ……うん。だけど、ふたりのときは、違うんじゃない」
「だよね」
「うん」
「だけど、田辺って、いつもこれよね」
「え?」
「あんなとこで、待ち伏せしてるからさ、もっと違う話かと思ったのに」
「ああ、それね。でも、あたし、さすがに今度は、そんな話だとは思わなかったよ。こんな話とも思わなかったけど」
「ハハ、そっか。で、いいの? 行くって言ったんでしょ」
「うん。わけわかんないけど、行かなかったら行かなかったで、気になるし」
「そうだね。もし、西條さんが、なんか因縁つけてきたらさ、バシッと言い返すんだよ」
「うん。まかせて」
「ハハ、その点は大丈夫か。まゆ、言いたいことあったら、まな板に水だもんね」
「はいはい、立て板に水、ね」
ミコトにもこの話をしたけど、何の話か想像がつかない、と言っていた。ミコトって、長く生きているくせに、乙女心には疎くて、「よくわかんない」んだそうだ。そもそも、乙女心に関係する話かどうかも、わからないんだけどね。
でも、
「西條さん、ちゃんとした子だから、変な話じゃないと思うよ。だから、まゆちゃんも、きちんと聞いてあげて」
だって。
「うん、わかったよ」
まゆも恵理子も、本気で、西條さんが因縁をつけてくるとは思っていない。そんなこと身に覚えがない。それに、西條さんのことよく知らないとは言え、そんな感じの子じゃないことくらいはわかる。
だけど、なんでまゆと話をしたいのか、さっぱり見当がつかないんだ。ミコトにはああ言ったけど、こうやって、西條さんの家に向かって自転車を走らせていると、やっぱり、自分が、わけわからないまま踊らされているピエロのように思えてきて、西條さんに対する憤りがわいてくる。
憤りが収まらないうちに、西條さんの家の前に着いた。