21.まゆの思いやり
次の日。
まゆは、結城君に、放課後、中庭に来てもらうことにした。結城君の想いに返事をするためだ。
恵理子には、朝、学校で会うとすぐ、今日、断るつもりだと報告した。予想に反して、恵理子は、あっさり「そう」と言った。
「だって、そうだろうなって思ってたもん」
「えっ、だけど、えりちゃん、お勧めな感じだったじゃない」
「話聞いたときは、結城君いい人だし、まゆにもカレシできたらいいなって思ったんだけど」
「うん」
「あとで、ゆっくり考えたら、まゆらしくないかな、って」
「え?」
「まゆ、好きでもないのに、とりあえず付き合ってみるって、できないもん。バカ正直というか、不器用というか」
「ちょっと、それ悪口?」
「いんや。あたしそういうの好きだよ」
「もうっ、だったら最初からそう言ってよ。無駄に悩んじゃったよ」
「ハハ、そうなの? ごめんごめん」
えりちゃんのせいでは、ないんだけどね。
結城君の想いに応えられないことで、まゆには、ひとつ気がかりがあった。
結城君を傷つけてしまうことだ。まゆ自身が、その痛みをよく知っている。まゆの痛みと同じではないかもしれないけど、結城君に告白されたときの、あの真剣なまなざしを思い出すと、やっぱりそれなりに傷つけてしまうよね、って思うんだ。
そのことを、昨日、より子おばちゃんに言うと、
「恋愛とはそういうもんだよ」
という、恋愛評論家としてのお答え。
「相手を思いやるんだったらね、ダメなときは、きっぱり断ること。そうじゃないと、未練を残して、相手も前に進めないよ。その子だって、前向きに生きていれば、必ず、次の出会いがあるんだから」
だって。
まゆは、その忠告に、素直に従うことにした。
放課後、中庭で待っていると、緊張した面持ちで結城君がやってきた。その様子を見たまゆも、緊張して表情がこわばる。しっかりしなきゃ。
「あ、あの、この間の話だけど」
「うん」
「結城君の気持ちはうれしいんだけど、あたし、やっぱり、結城君のこと、恋愛対象として見れないというか、だから、あの、ごめんなさい」
「え……あの、もっと、ゆっくり考えてもらってもいいんだけど」
「え?」
「まだ、三日しかたってないから」
「あの、でも、よく考えたし。ていうか、こういうの、考えるっていうより、気持ちの問題だって気づいて」
「えっと、この間、可能性はゼロじゃない、って言ってくれたよね」
「それはそうだけど。あくまでも、未来のことはわからない、という意味で」
「だったら……」
「でも、あの、ゼロじゃないけど、大きくもないんだけど」
「え……じゃ、あの、とりあえず、友だちとして、付き合うっていうのはだめかな」
「え、あの……」
この展開、なんかおかしいぞ。ハッキリ断ったつもりだけど、結城君、粘っている。というか、しつこい。もしかして、結城君の欠点て、これ?
「友だちって言っても、結局、将来、恋人になることが前提で付き合うってことだよね。あたし、そういう付き合い方ができないのが、自分では取り柄だと思ってるんだけど」
まゆ、思わず、さっきより、言い方がキツくなる。結城君の表情に、驚きが走る。
「あっ、ごめん。ぼく、しつこかったね」
「えっ、あの……」
「わかった。困らせてごめん。ちゃんと言ってくれてありがとう」
「うん」
ちょっとひきつってはいるけど、結城君は、笑顔を浮かべた。
こんなんでよかったのかな。
お互いに、前を向いていこう、結城君。