2.突然の告白(2)
「えーっ! マジで? いつ? どこで?」
その日の部活の後、二人だけ残ったソフトボール部の部室で、まゆは、恵理子に、結城君に告白されたことを話した。
まゆが、弁当箱を取りに戻った教室で、突然告白されたことを話すと、
「そりゃ、びっくりだわね」
まゆと、友だちの恵理子は、今は、北宮高校の一年生だ。
県立北宮高校、通称、北高は、まゆたちが通っていた中学校と同じ校区内にある。必然的に、まゆの中学からは、大勢進学していて、まゆのクラスにも、同じ中学の出身者が五人いる。そのうちの一人が恵理子だ。
ふたりそろって、無事、北高に合格したときは、うれしくて抱き合って喜んだ。恵理子の合格率は、まあその、黄色信号だったしね。
ところで、なんでまゆが、ソフトボール部の部室にいるのかって?
実は今、まゆも、ソフトボール部の立派な一員なんだ。といっても、選手じゃない。マネージャーだ。
北高ソフトボール部は、ここ一、二年、弱小クラブになっていて、部員がなかなか集まらない。まゆが入部する前は、恵理子たち一年生部員三人を入れて、十二人しかいなかった。
で、部長から、一年生部員たちに、誰か勧誘してきてくれない? という御達しが出た。選手がダメならマネージャーでもいい、ということで、恵理子がまゆを誘った、というわけだ。
もともと、ソフトボール部には、マネージャーはいなかったから、はっきりした「マネージャーの仕事」というのがあるわけではない。普段の練習のときは、用具の準備を手伝って、飲み物の用意をすると、あとはすることがない。
先に帰っていいって言われてたけど、なんとなく残っているうちに、バッティング練習のときなんかに、守備の穴埋めで外野を守ったりするようになった。なんせ、部員が少ないもんだから、こんなまゆでも、練習要員として結構あてにされている。意外にも、そんな球拾いのようなことをしているうちに、なんとなく守備が上達した。少なくとも、中一のときのまゆよりは、サマになっている。
「それでまゆ、冗談だと思ったわけ?」
「そう」
「だけど、結城君て、そんな冗談言うタイプじゃないでしょ」
「冷静に考えたらそうなんだけど」
「まあ、でも、あれよね」
ロッカーに寄りかかっていた恵理子は、ベンチに座りなおして、腕をくんだ。
「確かに唐突でびっくりするけど、いかにも告白します! ってシチュエーション作っといて、実はそうじゃなかった、っていうのより、ぜんぜんいいじゃない」
恵理子は、たまに、こういうことをサラッと言う。大抵の人なら、気をつかって言わないようなことも、サラッと言ってのけてしまう。
恵理子のこの話の、どこが気をつかっていないのかって?
実は、まさに、まゆ自身が、いかにも告白します、ってシチュエーションで、裏切られるような経験したことがあるんだ。そのときのまゆは、ものすごく傷ついた。気をつかってたら、そんなこと思い出させるようなこと、言わないでしょ。
だけど、まゆは、むしろ、恵理子のそんなところが好きだ。傷ついて、辛くてたまらなかったとき、恵理子の、あけすけで正直な態度が、元気をくれた。
今だってそう。どうせ、そんな辛い思い出、忘れるわけないもん。恵理子がこんなふうに言うと、「辛い思い出」が、少しずつ「思い出しても辛くない、辛い思い出」に変わっていくのが実感できる。
さてと、じゃあ、そのまゆの「辛い思い出」を掘り返してみますか。
保との、辛い思い出を……




