16.ミコトとまゆ(3)
「じゃあ、まゆちゃんは、その結城君て子が好きなの?」
ミコトの口調は、ちょっと不満そうだ。
「まだ、そういうわけじゃ……でも、結城君て、すごくいい人なんだよ」
「ふうん」
ミコトが、疑い深そうな目で、まゆを見上げてくる。
「それに、見た目だって、好みといえば好みだし」
「じゃあ、付き合いたい、ってこと?」
「まだ、そういうわけでも……ってか、ミコトったら、あたしが結城君と付き合うの、反対なの?」
まゆだって、付き合うって決めてたわけではないけど、反対の雰囲気でこられると、つい反論してしまう。
「そうじゃないけど。まゆちゃん、田辺くんのこと……」
「だ、か、ら、保くんのことは、もういいんだって」
公園でミコトに久しぶりに再会した日のあとも、ミコトは、何度もまゆと保のことを応援したい、って言っていた。まゆが、しつこいぞ、って怒ったあとは言わなくなったけど、ミコトったら、まだそんなこと思ってたんだ。
まゆの怒った顔を見ても、今日は、ミコト、珍しく引き下がらない。
「じゃあさあ、田辺くんのこと、もう好きじゃないとしても、結城君のことも、まだ好きじゃないんだよね。だったら、どっちのほうが、ちょっとでも勝ってる? どっちかって比べたら、どっちと付き合いたい?」
「えっ?」
そんなの、比べられないよ……
いや、まゆは、比べていたんだ、心のどこかで。
結城君は、優しくて穏やかで、頭もよくて、みんなの信頼も厚い。そういう、素晴らしい人だって思ってる。それを、心のどこかで保くんと比較して、そんなにいい人なんだから、付き合ってもいいんじゃないかって、思おうとしてた。
だけど……だけど、無意識にせよ、ふたりを比べてはいたけど、どっちが好きかって、自分の気持ちを比べてはいなかった。
「あたし、そんなの……」
わかんない、と言おうとして、後が続かなかった。
……あたし、保くんのほうが好きだ。
ここは、潔く認めよう。
「そうだね、ミコトの思ってる通りだよ。あたし、ふたりを比べたら、保くんのほうが好きだよ。こんないい加減な気持ちで、結城君と付き合ったらダメだね。あたし、結城君のこと、断るよ」
「うん」
「だけど、保くんのこと、もういい、って思ってるのはホントだよ。結城君と比べて好きってだけだから」
「うん……」
ミコトは、それ以上は、反論しなかった。
「断るって決めたら、なんかスッキリした。ありがと、ミコト」
「ぼくは、何も……」
「あーあ、お腹すいちゃった。あたし、もう帰るね」
「うん」
「じゃあ、また、来週、会えたらね」
「うん、じゃあね」
まゆの後ろ姿を見送りながら、ミコトの心は、ちょっぴり複雑だ。ほんとのところは、ミコトだって、まゆが結城君と付き合うことを断ったほうがいいのか、わからない。だけど、なんだか、つい、あんなふうにムキになって言っちゃったんだよね。
確かなのは、ミコトは、まゆに幸せになってほしいと、心の底から願っている……それだけだ。




