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14.ミコトとまゆ(1)

 翌日の土曜日、昼すぎ。

 まゆは、中学校の近くの児童公園にいた。北宮第二公園だ。一番奥のベンチにひとり腰かけて、本を読んでいる――公園の横の道を通りかかった人が見たら、きっとそう見えるだろう。

 だけど、まゆはひとりじゃない。ベンチの横に置いたカバンの影には、ミコトがいる。

「へえ、まゆちゃん、告白されたんだ? でも、いいの? 田辺くんのこと」

「もう、ミコトったら、まだそんなこと言ってる」


 ところで、なんで、まゆとミコトが、そんな公園にいるのかって。じゃあ、それをわかってもらうために、ちょっと中学の卒業式の前日にさかのぼってみよう。場所は、いつもの、学校の花壇。


「ねえ、ミコト、卒業しても、また会えるよね」

「もちろん。ぼくだって、まゆちゃんに会いたいし」

「じゃあさあ、どっか学校の外で会えるところない? ここだと、先生に会ったりしたら、面倒だし」

 で、ミコトが提案したのがこの公園。ここなら、ミコトの「見守る場所」なんだって。まゆも、公園なら行きやすくていいね、って思ったけど、気がかりがひとつあった。

「あたし、公園にいつ行くかわかんないけど、ミコト、ちゃんと来れる?」

「え?」

「あたしが、公園にいるってわかるのかなあ、って思って」

「あ、それなら大丈夫。まゆちゃんが来ていれば、ちゃんとわかるよ。すぐってわけにはいかないけど、五分くらいあれば、まゆちゃんが来た、ってわかるから」

「だけど、ミコト、あたしがここにいても、来ないときがあるよね。いつも、十分以上は待っているのに」

そうだ、花壇のところで待っていても、三回に一回くらいかな、ミコト来てくれない。まゆは、まゆがいることに、ミコトが気づいていないんだと思っていた。

「あっ、それは、あの……」

ミコト、アタフタし始めた。

「アハ、あたし、怒ってないよ。ミコトにも都合あるもんね」

まゆの笑顔に、ホッとするミコト。

「うん、そういうときもある。でも、たいていは、誰かいたから声をかけなかったんだ」

「え? 誰かって、ここに? あたしだって、それは気をつけてるけど」

「ここっていうか、そこの教室」

「そっか、話し声、聞こえるかもね」

 花壇の向こう側は、校舎の壁面で窓はないけど、まゆとミコトが話をしていれば、横にある窓から声が聞こえる可能性があったんだ。

「誰かいるってわかるの?」

「うん。ぼく、というか、ぼくたちの仲間は、そういうとこ、用心深いから」

「そうなんだ」

「端っこの教室のどっかに誰かいたら、まゆちゃんに声かけないようにしてたんだ。ぼく、このこと、まゆちゃんに言ってなかったね。ごめんね」

「いいよ。じゃあ、公園に誰もいなかったら、来れるってことだね」

「うん、たいていは大丈夫」

「で、なんでわかるの?」

「え?」

「教室に誰かいるってこと。あ、それに、あたしが公園にいるってことも」

「え、あの、それは……」

言いよどむミコト。

「ハイハイ、ミコトたちの秘密事項ね」


 で、北宮第二公園で、ミコトに会うことにしたんだけど、ミコトとこっそり会うには、意外にやっかいな場所だった。この公園、いつも誰かがいるんだよね。

 昼間はたいてい子どもが遊んでいるし、夕方は、中学生がたむろしていることが多い。さすがに、夜はひと気がなくなるけど、うら若き乙女にそんな場所は不用心だ。

 何度か公園に行ってみたけど、なかなか、だれもいない時に当たらなかった。

 そんなある土曜の部活の帰り、ふらっと公園に寄ってみたら、だれもいなかった。ちょうどお昼時で、もしかしたら、お昼ご飯の時間には、子どもがいなくなるんじゃないか、って気づいた。

 それで、土曜の部活の帰りに、この公園でミコトに会うようになった。いつも会えるってわけじゃないけど、昼過ぎのこの時間が、だれもいない確率が高い。ちなみに、ちょうどそのころ、恵理子は、来々軒デートの最中だ。

 本を読んでいるふりをしているのは、公園の横の道から見えても、あやしまれないように。道からは、まあまあ距離があるから、ミコトと話をしていても、大声を出さなければ聞こえないだろうけど、一人なのに話をしている様子が見えたらあやしいでしょ。


 そんなわけで、まゆとミコトが、卒業以来久しぶりに会ったのは、もう六月も終わりごろのことだ。

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