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12.恋モヨウ、いろいろ(2)

 恵理子が、ちょっとまじめな顔になった。

「あのさ、まゆ、もしかして、まだ田辺のこと気になってる?」

「えっ?」

「部活のとき、田辺のこと、見てるときあるからさ」

 ……そうだ。つい、保の姿を探してしまうんだ。

 

 保は、北高でも、走り幅跳びを続けている。まゆたちソフトボール部が練習をしている場所から、幅跳びの砂場は、ちょうどグラウンドの端と端、対角線上の向こう側にある。サッカー部と野球部が部活をしている向こうに、保が幅跳びの練習をしている姿が小さく見えるんだ。

 保は、別の場所で他の陸上部員たちと基礎練習をしてから、砂場にやってくる。まゆは、ソフトボール部の練習に立ち会いながら、ついつい砂場の方角に目をやって、保がまだ来ていないかと、探してしまう。

 

「あたし、わかりやすかった?」

「そうでもないよ。あたしだから、気づいたんだよ」

「そっか」

「田辺のこと、まだ好きなの?」

「そういうんじゃないと思う。保くんがいると、気になってしまうのはホントだけど、好きっていうわけでもないと思う」

「そう……」


 今はもう、保のことは何とも思っていない。なのに、なんで保の姿を追ってしまうんだろう。

 保の、あの、予想外の告白のあと、まゆは本当に辛かった。新しい高校生活に胸ふくらませるはずの春休みは、地獄のようだった。高校に行きたくない、とさえ思った。

 部屋の中にこもって、ゲームをしたり本を読んだり、グズグズと時を過ごした。合間に、涙を流して、ため息をついて、あきらめて、またグズグズとゲーム機や本を手に取る。

 いたたまれなくなって、フラフラと外に出ることもあった。目的もなく、商店街や公園、図書館なんかを回って、グズグズと時を過ごした。

 それでも、そんな自分が嫌になって、踏ん切りをつけようとがんばって、少しずつだけど、前向きに物事を考えられるようになっていった。

 そして、高校の入学式の日には、高校生活がんばるぞ、って決心した。いや、そのときは、まだ自分に言い聞かせた、っていうほうが近かったけど。


 恵理子とは同じクラスになれたけど、保とは、また別のクラスだ。しかも、保が一組で、まゆが八組。教室が離れていて、普段使う階段も違うから、同じ高校にいても、保には、めったに会うことがない。ごくたまに会っても、言葉を交わすことなく、すれ違う……

 だけど、まゆが確実に保の姿を見ることができる時間、それが部活のときだ。マネージャーは、先に帰っていいって言われても、なんとなく残っていたのは、半分は、純粋に、みんなの練習を見ていたかったのもあるけど、半分は保の姿が見えるからだ。あ、まゆのために言っておくけど、今は、残って練習を手伝うのに、本当にやりがいを感じている。


 なんで、保くんのことが気になるのかな? やっぱり、一度は好きだった人だからかな? きっとそうだ。今はなんでもなくても、そこが他の人とは違う。つい、気になるのは、しかたないよね。

 

「ま、どっちにしたって、結城君とのことは、まゆが自分で考えて決めなきゃね」

「あれ? いいと思うって言ってたの、だれだっけ?」

「いいとは思ってるよ。でも、まゆの気持ちが一番大事だもん」

「うん、そだね。ゆっくり考えてみるよ。あー、でも、ホントどうしよっ」

 

 

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