11.恋モヨウ、いろいろ(1)
話を“今”にもどそう。ソフトボール部の部室のふたりに。
「で、まゆはどうするつもり?」
恵理子は、冷やかすように、隣に座っているまゆの肩を軽く小突いた。
「うーん、一応考えてみるっては、言ったんだけど」
「あたしは、いいと思うけどなあ」
「えっ」
「だって、結城君て、クラスで一番頭がいいでしょ」
「うん」
「なのに、偉ぶらないし、出しゃばったりもしない」
「うん」
「みんなからも信頼されてる」
「うん」
結城君は、行事のときなんかのクラスの代表や世話役を、いつも引き受けてくれる。自分から立候補したりはしないけど、みんなから推薦されるんだ。決して、面倒くさいことはあいつに任せちゃえ、みたいなかんじじゃない。結城君に任せれば大丈夫、って思っているからだ。だから、結城君から割り振られたことは、みんな文句を言わずにやる。
「結城君て、ほら、何だっけ、ナントカを打つところがない、とか言うでしょ」
「非の打ち所がない、ね」
「そうそう、それ。ま、イケメンってわけじゃないけど、まゆ、面食いじゃないもんね」
恵理子、保のこと思い浮かべてるな。
「うん」
「あー、でも、背低いか」
長身の保と比べてるな。ついでに言えば、えりちゃん、もう「非」をふたつ打ってるよ。
でも、たしかに、結城君は、とってもいい人だ。人間なんだから、なにか欠点はあるだろうけど、クラスメートとして見る限り、結城君の人間性に「非」は見当たらない。
それに、たしかにイケメンとは言い難いけど、あっさり顔で優しい雰囲気は、まゆ、きらいじゃない。身長だって、女子の平均くらいのまゆよりは高い。もしかしたら、166センチの恵理子よりは低いかもしれないけど。
「でもさ、身長はまだまだ伸びるかもよ。マーくんなんかさ、半年で6センチ伸びたもんね。ひと月で1センチ。髪の毛かよ、ってね」
「アハ、そう考えるとすごいね」
マーくんというのは、恵理子のカレシだ。同じクラスの田上くんで、付き合い始めて、もう半年ぐらいになる。文化祭の時、クラスの出し物の準備で一緒になって、すごく気が合った。で、文化祭当日に告白されて、付き合うようになったんだ。
恵理子と田上くんが付き合い始めたころは、恵理子を取られるみたいで、正直、まゆは、ちょっと寂しい気もした。だけど、まゆから見て、ふたりは、あまりにもお似合いのカップルで、素直に応援したくなってしまう。それに、恵理子との友だち関係は、何も変わらず続いている。
田上くんは、野球部のピッチャーだ。下の名前はマサヒロ。あのヤンキースの田中投手とは、一字違いだ。「正博」だから、正確には三文字違うけどね。で、あだ名は、マーくん。
他の部員からは、「名前では、オマエの方が『上』だな」って、からかわれているらしい。田上くんは、「バントの上手さでも、負けってないっすよ」なんて、冗談で返すんだけど、恵理子に言わせると、あれは本気なんだって。田上くん、たしかにバントには自信あるらしいけど、ピッチャーが、バントで競ってどうすんの。それに、田中投手はバントしないから、上手いか下手かわかんないでしょ。
突っ込みどころ満載の田上くんだけど、エース目指して、日々練習に励んでいる。
「あっ、そうだ」
「え、何?」
「まゆたちが付き合ったらさ、あたしたちと一緒にデートしようよ」
「えっ、まさか来々軒デートじゃないよね」
来々軒は、恵理子と田上くんの定番のデートコースだ。北高の近くにあるラーメン屋で、北高生御用達の店。ラーメン一杯五百円で、北高生なら、替玉を一玉サービスしてくれる。田上くんと恵理子は、毎週のように、土曜の部活のあと、ふたりで食べに行っている。
他の野球部員も大勢来るから、最初のころは、相当冷やかされたらしい。恵理子がキャッチャーなもんだから、「今日も女房とデートか」が、冷やかしの定番。普通なら、そんなところ避けるんだけど、安くて旨くて替玉付の、来々軒ラーメンの魅力の方が、勝ったんだって。
「来々軒じゃ、ダメなの?」
「ダメでしょ」
「アハ、冗談だよ。遊園地とか行ったりさ」
「なんだ、よかった。って、まだ、付き合うって決めてないよ」




