1.突然の告白(1)
「坂木さんのことが、好きなんだ。僕と付き合ってください」
「え?」
あまりにも唐突で、まゆは、最初、結城君が何を言っているのかわからなかった。
「えーっ!」
次にまゆを襲ったのは驚き。
でも、その次の瞬間には、まゆは、結城君の言葉を別の意味で受け止めていた。これは、冗談でしょ。そんな冗談、こっちは、ちっとも面白くないよ。
「ごめん、急にこんなこと言って。だけど、これジョークとかじゃないから。真剣な気持ちなんだ」
うそ、結城君、心が読めるの? って、まゆが、わかりやすいんだよね。まゆの怪訝な表情見たら、だれだって、疑ってるって、わかるでしょ。
だけど、まゆが疑うのも無理はない。
だって、放課後、たまたま、忘れ物を取りに教室に戻ったら、たまたま、結城君が一人だけ教室に残っていて、呼び止められて、ちょっと話がある、って言われて、何? って応えたら、これだもん。告白のシチュエーションで、こんなのってある?
「僕だって、こんな感じで、コクるつもりじゃなかったんだけど、なんか、今だ! って思っちゃて。実はさ、もうだいぶ前から、坂木さんに告白しようって思ってたんだけど、なかなか、その、勇気が出なかったっていうか……もうすぐ一年も終わっちゃうし、二年になる前にどうしても気持ちを伝えておきたい、ってアセってたんだよね。そしたら、今、たまたま坂木さんが来て、二人だけだったし。なんか、思わず、呼び止めちゃって」
結城君の表情は真剣だ。むしろ、真剣すぎるくらい必死な感じ。
そういうことだったんだ。まゆ、状況が理解できて、急にドキドキし始めた。
だけど、こんなときって、どう答えたらいいの。
実は、まゆ、男子に告白されたのって、初めてだ。何をどう考えたらいいんだろう。ドキドキが速くなるほど、頭の中が混乱してくる。
落ち着け、まゆ。とにかく、結城君と付き合ってもいいか、その答えを出さなくちゃいけない。
結城君とは、高校に入って、同じクラスになって、クラスメートとして話をしたことはあるけど、とくに親しくしていたわけではない。だけど、結城君て、いい人だな、って思ったことは何度かあるよね。好き、とか、そんなふうに思ったことはないけれど……
「あの、あたし、なんか突然で、そういうこと、今まで考えたことなかったし……」
やっぱり、付き合うとか、そんな感じじゃないよね。
「あの、坂木さんて、今、付き合ってる子って、いない……よね」
「うん」
「じゃあ、好きな子は、いる?」
「え? あの、いない」のかな……
ふと、保の顔が思い浮かんだ。
「いないよ」
保の顔を振り払うように、もう一度、言う。
「じゃあ、僕とのこと考えてみてくれないかな」
「え?」
「僕のこと、なんていうか、今までは、付き合うとか、そういう対象として見てなかったと思うけど、これから、そういうふうになってもいい、って可能性があるかどうか、考えてみてくれない?」
「だけど、あの……」
「それとも、可能性ゼロで決まりなの?」
「えっ、そんなことはないけど……」
結城君の緊張して強張った顔が、ふっと緩んで、優しい笑顔になった。
「だったら、ゆっくり考えてみて」
「うん」
まゆ、思わずうなずいていた。
「ありがと」
「うん」
まゆの胸が、さっきとは違う理由でドキドキし始めた。結城君て、こんな表情するんだ。
「じゃ、あたし、もう行くから」
まゆが、教室から出ようとしたとき、まゆは、また呼び止められた。
「坂木さん!」
まゆが振り向くと、もう一度、結城君の優しい笑顔と目が合った。
「弁当箱」
「あっ」
これを取りに戻ったんだった。




