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第八十九話「成れの果て」

明けましておめでとうございます。本年は一層、作品の向上と執筆に精進していき、またこちらの作品の完結を目指して参ります!昨年同様、お付き合いを頂ければ、幸いです。どうぞ宜しくお願い致します(ノ´▽`*)ノ☆;+;。・゜・

 私はスーズから離れ、キールに向かって名前を叫んだ! 彼が居た場所は目が眩むような光のドームが盛り上がり、私は反射的に目を瞑った。


 …………………………。


 ややあって恐る恐る瞼を開くと、徐々に薄れていく光に私は息を呑んだ。一瞬の出来事が恐ろしいほど長く感じる。


「!?」


 光の中からなにかが揺らいだと思った瞬間、凄絶な突風の光が発現し、それはビア王へ向かって突撃した! 王は叩き付けられるようにして床へと押し潰された。


 ――な、なにが起こったの!?


 私は全く状況を呑み込めずにいたが、瞳に映し出された人物によって理解した。それはキールが剣を振り下ろした姿だった。ビア王の光の攻撃を剣の波動で吹き飛ばしたのだ。


 ビア王は打ち所が悪かったのか、仰向けになって身動きが出来ずにいた。その間にキールは冷然とした表情をして、王の元へと近づいて行く。そのキールの顔がとても無機質で恐ろしかった。


 ――キール、まさか本当にビア王を斬ったりしないよね?


 私は焦燥感に駆られていた。マキシムズ王も悪い人だったけど、目の前で殺められた姿を見た時は正直悲しかった。その思いを今度はビア王で見るのは嫌だよ!


 でもそれを私如きが口に出来ない事はわかっていた。だから心が痛くて痛くて仕方ない。今まで見せた事のない冷酷な顔を見せるキールはビア王の前まで来ると、剣を突き付けた。


「ビア王、高尚な貴方らしくもない行為を誠に残念に思います。貴方にはきちんと罪を償って頂きたかった」

「フッ、どっちみち処刑は免れん。ならば私の好きなようにするさ」


 この状況でも余裕の笑みと言わんばかりに自嘲するビア王に、私は言葉を失う。なにが彼をそこまで気丈にさせているのだろうか。


「確かに罪を償うとなれば、貴方の命を頂く事になります。しかし、王としての最後の誇りを守れます」

「馬鹿げている」


 ビア王はキールの言葉を蔑んで反論した。そんな王の様子にキールは目を(すが)め、剣を振り被った。


 ――え?


「非常に残念です」


 キールは最後の言葉をビア王に落とし、そして静かに剣を振り下ろした……。


「え?」


 剣がビア王の首に向かって、振り下ろされる瞬間!


「おやめ下さい!!」


 ――え?


 突然、女性の泣き叫ぶ声が広い空間へと響いてきた! そして次の瞬間、キールの振り下ろした剣の前に、一人の女性の姿があった。女性はまるでビア王を守るように跪いていた。


 薄暗い部屋でハッキリとはわからなかったけど、女性はブロンド色の長いストレートな髪に、黄金色に縁どられた上品な上衣下裳(じょういかしょう)を身に纏っていた。


「キール様、お願いでございます! 恐れ多い事を申し上げているのは重々承知でおります! ですが、どうかどうかお情けを下さいませ! どうか我が王の命だけはお助け下さい!」


 女性は間髪入れず、額を床に埋め泣き叫んで強く懇願していた。キールは目をみるみる大きくして女性を見つめている。


 ――この女性は一体誰だ?


 私が疑問を浮かべた後だった。


「ルイジアナ?」


 放心状態のキールが名を零し、私は目を剥いた!


 ――ま、まさかこの女性は!


 キールの元恋人ルイジアナちゃん! 私は頭を深々と下げている彼女の姿をガン見する! ケンタウルス達も茫然として、彼女の様子を見つめていた。


(わたくし)は王のいない世界に生きとうございません! キール様、お願いでございます! どうかどうか命だけはお助け下さい!」


 ルイジアナちゃんの切なる思いが痛いほどに伝わってくる。あのキールが冷や汗を出しながら、ルイジアナちゃんの姿を見下ろしている。そんな中だ。


「ルイジアナ、オマエ……。見苦しくいらぬ行為だ。今すぐにこの場から出て行け!」


 最後の力を振り絞ってか、上体を起こしていたビア王が強い怒号を上げた。こんな事までしてくれたルイジアナちゃんを邪険に扱うビア王は酷すぎるな!


「嫌でございます! 貴方様の命がかかっているのです! 私は離れませぬ!」


 顔を上げた彼女は確かにルイジアナちゃんだった。額を覗かせた美少女だ。あのキールの部屋に飾ってある絵画と同じ面持ちをしているけど、あの頃よりもずっと女性らしく美しくなっていた。


「……っ」


 ルイジアナちゃんの強い思いに、あの王が言葉を失っているようだった。


「ルイジアナ妃、貴女の思いを聞き入れる訳には参りません」

「え?」


 ルイジアナちゃんは瞠目し、キールと視線を合わせる。キールの表情は悲しいほどに冷然としていた。


「ビア王は処刑に当たる行為をなさっています。不意打ちによるマキシムズ王の殺害、私の婚約者を拉致し、そして殺めようとした。それに続き、むやみに攻撃を繰り返し、王として決してならぬ行いです。それを見過ごせるほど、法は甘くございません。妃である貴女ならおわかりの筈でしょう」

「……っ」


 尤もの言葉にルイジアナちゃんから涙が溢れ零れていた。元恋人で深く愛していた、愛し合っていた彼女なのに、キールは厳酷な言葉を叩きつけた。


「でしたら、私も一緒に処刑下さいませ!」


 ルイジアナちゃんは思い切った言葉を投げ返した。それにキールは大きく動揺しているようだった。


「私は王の行為を知っていながら、それを見過ごしておりました! 私も同罪でございます! 王のいない世界を歩むぐらいならば、ここで一緒に死なせて下さいませ!」


 私は彼女から目が離せずにいた。なんでこんなにもルイジアナちゃんはビア王を庇うの? まさかあの王を愛しているというの? キールは苦渋の表情を見せていた。


「ルイジアナ、いいかげんにせぬか!! なにも知らぬオマエがしゃしゃり出るな! オマエの行動と発言は私の恥だ!」


 再びビア王が叱責の声を上げた。ここまで守ろうとしてくれた彼女を怒る神経が信じられないと思ったが、私は気が付いたのだ。ようやく……、そう、それは……。私はゆっくりとキールの元へ寄ると、彼が握っている剣をサッと取った。


「千景?」


 突然の私の行動にキールは目を丸くして私を見つめる。でも私は彼を見ずに、


「「「「!?」」」」


 剣をルイジアナちゃんの首元へと叩き付けた。そこにいたみなが息を呑み、私の行動を凝視する。さすがのルイジアナちゃんからも、額から汗が流れ出ていた。


「ならお言葉の通り、まずはアナタから処刑にかからせてもらうわ。ビア王の行為を知っていながら、見過ごした罪を逃すわけにはいかないもの。そうでしょう?」


 私は毅然としてビア王に同意を求めた。視線を向けると、彼は瞳を揺らし茫然としていた。あの無表情の王が表情を崩したのだ、その姿を目にして私はやっぱりと確信した。


 ――ビア王もルイジアナちゃんを愛しているんだ。


 彼が異様に「無」の世界に拘る意味がやっとわかった。彼は無にする事によって自分の犯した罪を拭いたかったのだ。それはすべてルイジアナちゃんの為に、自分を心から愛してくれる彼女の前では善人でいたかったのだ。


 ――そう、世界を破壊してまで彼女を愛していたかったのだと……。


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