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第八十七話「誰にもわからぬ心」

 ご、ご愁傷様レベルだ。これはもう手の施しようがない。でもこのままだと私は禍として利用されてしまう。ど、どなんしたらこの男を止められるんだ!


 私は冷や汗を流しながら、さらにさらに後ずさりをしていると、またしても王は私との距離を縮め……な、なんと今度はガシッと手を掴まれてしまったぞ!


 ――ひょぇえ!!


 私は心の中でムンクの叫び声を上げた。とんだ思い切った行動をされ、私の恐怖心は一気に頂点へと達したのだ。


「……………………………」


 ガクガクと躯が震え上がる中、王から腕を引っ張られ、そのまま祭壇の前まで連れて行かれる。


「ちょっ、なにするの!」


 王は私の言葉をフルシカトし、無言のまま祭壇を黙視していた。


 ――この祭壇にはなにかあるのか?


 私も目線を向けてみると、不思議に目を奪われる。金属や宝石によってきめ細やかに施された装飾が華やかで目を惹くのは勿論だが、天井から照らされるグリーンの光が妙に神秘的だった。


 このまま見続けていると、心まで奪われてしまいそうな気分を感じた時、私は我に却って顔をブンブンと横に振った。なんだかマインドコントロールされるような感覚で、危険を感じたのだ。これからなにをされるのか恐怖を振り切る為に自ら口を開いた。


「な、なにをしようとするの! ていうか、もう一度考え直してよね! 破壊して無にしなくてもやり直せる方法をさ!」


 押さえられている腕を振り払いながら、私は王へと訴えかける。


「既成事実を無にする事は出来ない」

「へ?」

「だから無にする意味がある」


 うぅ~、訊いたあっしがバカでした! この王の言う意味はわからないんだもんね! きっと言い出したら人の意見を聞き入れない困ったちゃんタイプだ。


 どうしたらいいんだよ、このまま禍の力をもたらせて世界を破壊するなんて冗談じゃない! 私があたふたともがいている内に、王は乱暴に私を祭壇の前に突き付けた!


「うわっ!」


 それから私の躯をクルッと自分の方へと向き直させる。私と対面した王は私の胸元に人差し指を翳す。


「?」


 私がその指を凝視していると、王の指はそのままスカートの裾まで滑り落ちたと同時に、私の衣服は綺麗に左右へと引き裂かれたのだ! 露わになった私の豊満のボディに、私は目ん玉が飛び出しそうになる!


「ぎょぇえ! な、なにをするんだ! 契りは交わさないんだろ!」


 な、なんてエッチなやっちゃ! 今まで欲望を抑えていやがったな! 王は淡々とした口調で話し始める。


「忌々しいマルーン国の刻印が消えているだろう?」

「え? ……た、確かに」


 私は自分の胸元へと目をやると、あの恐ろしい禁断の刻印が消えていた。やっぱりマキシムズ王は死んで……。私はビア王がマキシムズ王を手掛けた時の光景を目にしたし、キール達がマキシムズ王の首を翳したという話も聞いていたけど、どこか半信半疑だった。


 でも刻印が消えているのを見て、マキシムズ王の死は紛れもない事実となった。その瞬間、私はゾクッと背筋が凍りつき、躯が硬直する。さらに心臓の音が乱れてきて、頭の中がグラついてきた。嘔吐したい気分だった。


「この祭壇は儀式の場として存在を成している」

「儀式?」


 なんとか気丈を保ち、私は王の言葉を耳に入れる。


「禍の力を導かせる特別な祭壇だ」

「え?」


 ま、まさかこの祭壇の上で歌わせると、世界中に私の歌声が発信されて、破滅へと導けるとかじゃないよね! い、嫌だ嫌だ嫌だぁああ! そんな格好悪い事が出来るかぁああ! 私は悪魔じゃないんだからね!


 逃げたい一心であったけれど、躯の震えが酷くて返って動かす事が出来なかった。目の前の王は死人のように顔色が失われていて、まるで死神でも見ている気分にさせた。


「私をどうするつもり!? 歌なんか歌わないから! 歌うぐらいなら舌を噛んで死んでやる!」


 悪あがきが出来ないのはわかっていた。それでも私は声を絞り出して王へとノーを訴えかける。


「その必要はない」

「え?」


 歌う必要がない? 歌わないんだったら、どうやって禍の力を導かせるんだ。


「この祭壇の中にオマエの心臓を埋め込めばいい」

「はい?」


 私の目が点になる。


「力を導くには禍の心臓と血が必要なのだ」

「はぁああ!?」


 ――なんてグロテスクな儀式なのだ! 黒魔術ではないか!


 なんというアブノーマルな趣味なんだ! もう頭がイカレ過ぎていて、こんな危ないヤツの前から早く逃げなきゃ! 私は王を払い退けて逃げようとした。


「きゃぁああ!!」


 王から腕の骨が折れるのではないかというほど力で、私は祭壇へと押さえ付けられる。体勢が崩れて、私はそのまま祭壇の上へと仰向けに倒れてしまった。


「嫌だぁああ!!」


 私は狂ったように泣き叫ぶ。それでも王は自分の躯ごと私を押さえ込んできた。そして私の心臓へと手を宛がう。ま、まさか心臓を抉り出そうとしている!?


 ――嫌だ嫌だぁああ! 助けてキール!!


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