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第八十六話「禍をもたらすのか? 救いの女神となるのか?」

「ど、どういう意味?」


 今のビア王の言葉の意味が把握出来ず、戸惑って動きが止まってしまった。そんな私の様子を王は気にもせず、再び祭壇へと足を運んだ。そして祭壇を照らす光を見上げる。


「?」


 私は王に訝し気な眼差しを向ける。


 ………………………………。


 暫く沈黙に支配されていたが、ふとしたところで王が口を開いた。


「疎ましいのだ」

「え?」


 私は目をパチクリとさせる。今の王の言葉なにがだ? 私の事じゃないよね?


「依存される思いを抱え、定められた道を歩んで行く事が……」

「はい?」


 なんだなんだ? さっぱわからんばい。もっとわかり易く言ってくれんかい?


「あのおっしゃる意味がわかり兼ねるのですが」


 私は差し障りがない程度に訊き返した。


「…………………………」


 だんまりモードかい! もしかして、今のって思い切った告白だったのかな? 人生相談だったとか? 私はわからないなりに、懸命に思案を巡らせていた。


「生まれ持った運命(さだめ)を覆す為に、禍の力が必要なのだ」


 またもや意味プーの言葉を紡いでいく王は私の方へと振り返った。至って王の表情は変わらないようだけど、瞳の奥に底知れぬ熱いものを感じ取る。


 ――なんだなんだ?


 生まれ持った運命(さだめ)を覆すって、なにか重たい責任感でも抱えていて、それから逃れたいのかな? 王だから色々と重たい責任があるんだろうけど、それをなんとかするのも王の役目だぞ?


 他人の力を借りるにしても、なんでわざわざ禍なんだ! それは単なる悪趣味なんだっての! 私は心の中で王を叱咤していると、彼はゆっくりと私の方へと近づいて来た。


 ――わわっ、な、なにしようとする気だ!


 反射的に思わず私は後ずさりをしていたが、王は難なく私の前まで来た。見下ろされている瞳の奥はさっきよりももっと燃え上がった炎が見える。なんか野心そのもののようだ。


 ――きょ、きょわいぞ!


「禍としてもたらすのか? 救いの女神とするのか? それは王の心次第だ」

「え? その言葉って?」


 ――その言葉、どこかで聞いた事があるような? つい最近だよね?


 私があれよこれよと思考を巡らせている間、王は真っ直ぐに私の瞳を捉え、言葉を紡ぐ。


「禍に関する書物に記された言葉だ。禍を本来のままの力をもたらすのか、それとも救いの女神にするのか、利用する目的はニつある」

「だったら後者の方を選ぶのが普通でしょ?」


 私は迷いのない素直な意見を述べた。しかし……。


「私は望んではいない」

「なんで!」


 王は冷徹な口調で否定した。私は驚愕して王を見返す。


「禍をもたらし、この世を破壊するのが目的だからだ」

「はい? なんの為にそんな事!」

「無にする為だ」

「無?」


 なんかこの王とはまともに会話が出来ないのではないかと頭が悩ましく思えた。さっきから王の言葉は殆ど理解出来ない。独自の世界観を繰り広げていて私にはついていけん! なにがしたいんだ!


「この世は実に面倒な事ばかりだ。もっとシンプルにする、ただそれだけだ。多様化された疎ましい世界を無にし、一から界を作り直す」

「アナタ、正気?」


 とてもまともな人間が考える発想ではない。私は驚きを通り越して、奇異な眼差しを刺すように向ける。


「人間という生き物はまともではない。それを正そうとしているのだ」


 ダ、ダメだ、この人は完全に手遅れだ! きっと王としての任務が重すぎて、頭がイカれてしもうたに違いない! 参ったぁ~、ここまで追い詰められてしまっていて、どうやって更生させてあげればいいのさ!


「だからといって、私をその破壊に利用されるのは心外だっつーの! 私の気持ちもあるわけだし!」

「…………………………」


 い、嫌な間だな。王の顔はさらに無機質になって私は降参で~す! の旗を掲げた……かったのを抑え、と、とりあえず出来る限り更生を試みようとしてみた。


「私は王じゃないから、気持ちをわかってあげられないし、偉そうな事は言えないけど、確かに王という立場は政治や社交界やら格式ばった堅苦しい事だらけで、色々と大変だと思うよ。責任大だし辛い事も多いとは思う。でもだからといって、逃げる為に世界を破壊しようと考えるのは間違っているじゃないかな」

「…………………………」


 説教じみている言葉だから、さぞかし王は煩わしく思っているだろうな。


「アナタは王として選ばれて生まれて来たんだから、逃げずに最後まで全うしなきゃ。アナタが王としているだけで、喜んでくれている人は沢山いるんだからさ」


 我ながらナイスなアドバイスじゃん! 自分で言って涙ちょちょ切れる言葉だよ。ところが、王からなんの反応もないのだ。しかも燃え上がっていた瞳の奥が次第に殺気立っていったのは……何故だい?


 あっし、明らかにヤバイ事を申し上げましたかね? 私は身の危険を感じ、躯を後退していた。だが反対に王は私との距離を縮めようと近づいて来る! うわぁ~来るな! 寄るな! 近寄るな!


「言いたい事はそれだけか?」

「はい?」


 今の言葉はまるっきし私の言葉が響いていらっしゃらないご様子ですよね? なんか気が済んだか的に聞こえたんですけど? その私の見方は間違いなかった。


「無にしなければ意味をもたない。なにを言われようがされようが、私は禍の力をもたらす」


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