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第九話「マイネーミィーズ」

 私より年上だと思った少年は勝ち誇ったような涼しい表情をして、こちらを見下ろしていた。ッカー! そんな余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)とした顔をしても、私の方が年上なんだからなって、本当の事を言ってやりたい。


 しかし、年を大きくサバよんだ手前、泣く泣く我慢しなければならなかった。ム・カ・ツ・クゥー。本当にムカツクゥー! そんなブーくれた私の姿に、パツ金王子は気付いてくれたようで、


「有難う」


 と、私に向かって優しく微笑んでくれた。うわぁ~、今の笑顔ヤバイッしょ! 私の心は一気にバラ色の花で満開に輝いた。顔がフニャンと緩んじゃいましたよ。


『なにお礼言ってんだよ?』


 少年がかなり不満気な様子で、王子へと話しかける。


『だって気を遣ってくれたんだよ?』

『オレはアンタ呼ばわりをされて不快だった』

『まぁまぁ。そういえば、彼女の名前は?』

『知らない』

『え、訊いていないの?』

『訊いていないし、名乗られてもない』

『もう』


 またなにを話しているのかさっぱりだったけど、パツ金王子がもう一度、私にその綺麗なお顔を向けてくれて超ドッキドキ! 顔は自然とニンマリと綻んでしまう。


「こちらの都合で話し込んでしまい、大変失礼を致しました。私の名はアイリッシュ・ブラックソーンと申します」


 わわ、優しい甘いヴォイスに耳の奥がクシュッとされる感じ。それにこの甘いマスクと気品のある仕草、どっかのヤツとは大違いだ。無意識に王子の隣に立つ少年を一瞥してしまう。


「素敵なお名前ですね。あの、私は笹瀬千景と言います。千景と呼んで下さい!」


 ちゃっかりと下の名前で呼んでアピールさ。


「素敵な名前と言ってくれて有難う。貴女は千景ですか。ではそうお呼びしますね」


 うっひょー。この声で呼ばれるだけで心臓が飛び出しそうだよ! もう嬉しくて嬉しくて、今の私の瞳にはパツ金王子しか映っていなかった。


「おい、ちんちくりん」


 ん? 少年が私の事を呼んでいる? いやいや、ちんちくりんってさ、ないよね? でも私じゃないなら、王子の事……でもないよね? どちらにせよ、なんだか無性に腹が立ってきたから、シカト、シカト。私はヤツを見ないようにする。


「おい、ちんちくりん」

「キール、その呼び方が良くないよ。ちゃんと千景って呼んであげなきゃ」


 やっぱ私の事を呼んでいやがったのか! 絶対に振り向かないから。コイツ、本当にムカツクゥー!


「千景」


 呼ばれて思わず振り向いちまったぁー。ヤツも声は良いんだよな~。振り向いちまったものの、私は視線を合わせないようにしていた。


「ちゃんとこっちを見ろよ。オマエ、オレに訊く事があるだろ?」

「は? なんもないけど?」


 嫌々ながらもヤツと視線を合わせ、素っ気なく答えてやった。たまにヤツが言う意味がわからないわ、理解し難いわでイライラと苛立つ。


「じゃぁ、オマエ、オレの事なんて呼ぶんだよ?」

「もしかして名前を言いたいの? だったら、まどろっこしい言い方しないで、とっとと名乗ればいいじゃん?」

「あ?」


 ヤツの表情が険しくなり、怒りを覚えているのがわかった。私にはそんな事はどうでもよくって、自分の気持ちを素直に伝えてやった。


「私はアンタの名前なんて興味ない。だから訊く意味がない」

「はぁ?」


 完全にヤツは頭にきていたと思う。でも私が今まで腹立てた数より遥かに少ないんだから、我慢しやがれ。


「まぁまぁ、ニ人ともね? 千景、彼の名前はキール・ロワイヤルって言うんだ。ぶっきらぼうに見えて根はとても良いコだから」


 王子、その優しさが身に染みたよ。が、ヤツの本性は根が良いコではなく、ただのエロガキですから。ヤツが王子を騙しているとしか言いようがないな。やっぱどうしようもないガキだ。


「わかったか? オレの名前」

「忘れた」

「ふざけてんのか?」


 さらにヤツがグッと目尻を上げ、私を睨み上げる。きょ、きょわししっ。ヤツは若いが、なんか無駄に凄味があるんだよな。気後れしてしまうわ。


「まぁまぁ、千景。彼の名前はキールだからね。あ、ボクの名前ももう一度言うと……」

「アイリッシュさんですよね?」

「あ、うん。覚えていてくれて嬉しいな」

「いえ」


 アイリッシュさんの名前は忘れませんって。頭にしっかりとこびりつかせておきましたから。グヘヘ❤


「キール、そろそろボクは行くよ」


 アイリッシュさんはヤツではなくキール(仕方ないからそう呼んでやろう)に、おいとまをかける。あぁ~もう少しアイリッシュさんとお話したかったのになぁ。そんな私の乙女の想いが通じたのか、アイリッシュさんは立ち去る前に、


「また後でね、千景」


 軽くウィンクをしてくれた。どっひゃー、今のヤバイッしょ! 鼻血ブーたれモンだよ! 私は一気にテンションMAXで大興奮してしまった! その興奮が胸の内側から飛び出しそうになったが、なんとか無理に鎮めて彼が去る姿を見送った。


 ――後ろ姿も美しいなぁ。


 アイリッシュさんって、ホントマジでキュンキュン王子だよね。これまでの道のり、我慢に我慢を重ねた甲斐があって、素敵な王子様と出会えて良かったぁ。ぐふふっ、私はなんだかんだ心躍る喜色を表していた。


 アイリッシュさんの事になると、ついついヤツ……ではなく、キールの存在を忘れがちになってしまい、今も彼の視線に気付かずにいた。この時のキールはさっきの名前の件といい、アイリッシュさんに対する私の態度といい、相当腹が立っていたみたいで、この後、私はすこぶる後悔する羽目となる……。


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