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第八話「お待ちかね! マイプリンス現れる」

 私は後ずさりをして拒否る姿を見せるが、んな成りふり構わず、ヤツは無遠慮に私との距離を縮めて来た。そして、すぐに私の頬をガシッと両手で包み込んで顔を上げさせる。


 はい、お決まり~! 本日、何度目か忘れちゃったぐらい行われておりますチューでございまぁ~す。私はもうどうでもいいわって開き直り、近づいて来る少年の唇を受け入れようとした。


 ――……あれ?


 チューがこない? そぉ~っと瞼を開いてみると……? ヤツは私ではなく全く別の方向に視線を向けていた。


「もうそんなに仲良くなったんだ。さすがだね、キールは」


 鼓膜をくすぐる甘いテノールの声が入る。この声は少年が向けている視線の先から聞こえた。私もフッと視線を向ける。


 ――キタァァアア――――――!! 超容姿秀麗!! パツ金長髪ストレートォォオオ!! これこそ本物(リアル)プリンスだぁぁああ!!


 神がいた。透明感のある美しい肌、女性かと見紛うほどの中性的な麗しい顔立ち、瞳は鮮やかな青い宝石のように煌いている。陽射しの下で波打つ爽やかな海を具現化したような男性だ! な、なんちゅー超超超美青年なんだぁぁああ!!


 そして美しい宝飾品を身に着け、繊細で上品な刺繍デザインの礼服を見事に着こなした王子様だ! 王子オーラが半端ない! 歳も近そうだし、まさに超々ドタイプー! ブハッ、マジ鼻血が出そうだよ!


 その強い想いからか、自分の手は独りでに、その彼へと向かっていた。それに応えようと彼の方も手を返そうとしてくれている。まさに運命の出会いシーンとも言える祝福の鐘が鳴り、歓喜の光に満ち溢れていた!


 私は色気づいた少年の事はさっぱりと忘れ、もう目の前のパツ金王子しか見えていなかった。しかぁあし! ヤツがだ! 私の後頭部を肘で小突いてきやがった。その瞬間、私の想いは粉々に砕け崩れ落ちた……。


 ――殺ス! マジ殺ス! このエロス! コンチキショー!!


 私は瞬時に少年を睨み上げる!


 ――邪魔をした貴様の罪は人を殺したと同じに重い! 重罪人めが!


 この怒りの震えは言葉では表せられない。商人に奴隷として連れて行かれそうになったり、少年と出会って貞操の危機があったり(キスだけだけど)、我慢に我慢を重ねて、やっと出会えたマイプリンスなのだ!


 それなのに、それなのにコイツはぁああ! 人の恋路まで邪魔しよって、絶対に許さん! 絶対に許さぁああ―――ん!! 私は頭の中で少年の無駄に良い顔に連打のパンチを食らわせていた。


 ヤツは私の凄みには目もくれずに、パツ金王子の前へと向かって行く。その位置はあっしの場所だぁああっ! て叫びたくなるが、少年から喋るなと言われている手前、声が出せず。やっぱり火炙(ひあ)りはきょわぃっす。


『この女、マジバカ』

『もしかして手こずっているの? 初めてじゃない?』


 少年とパツ金王子がなにを話しているのか、さっぱりわからなかったけど、少年は不機嫌そうで、パツ金王子は嫋やかに微笑んでいる。私は王子の姿にウットリとしていた。彼の笑顔にマジキュンキュンキュン死にだよ。萌え萌えさ!


『手こずってない』

『そうなの? じゃぁ、無事に契りを交わせたの?』

『それはまだ』

『キスまで出来たのに契れなかったの?』


 パツ金の王子が困惑した表情をして少年を見ている。私は再び怒りが込み上げてきた。きっと、少年が王子に不躾な言葉を発したに違いない!


『アイツ、処女じゃないってさ』

『キールって処女じゃないとダメだったっけ?』

『いや、別に』

『でも凄く残念そうだったよ、今』

『はぁ? そんなわけないだろ? こんなちんちくりん娘』

『ちんちくりんって』


 少年が私を鼻で笑った気がした。ムッカァー!


『話が終わったら契りを交わす約束だ』

『そっかぁ、可愛いコで良かったね』

『全く可愛いげがねーよ。キスしても口も開かない』

『え? それって拒否られたの?』

『さぁな』

『ひゃ~、キールが拒否られるのって初めてじゃない?』

『煩い』

『本当に大丈夫?』

『だいじょばなくてやるしかないだろ?』

『優しさと愛がないと女性の躯は反応してもらえないよ?』

『だからなんだよ?』

『もう、困ったなぁ』


 お、王子が完全に参ったという顔をしているではないかぁああ。もう絶対に許さないぞ! コイツ、私だけじゃなくて王子にまで高飛車な態度をとりよって!


「ちょっとアンタさ!」


 私は怒りという感情が沸騰し、声出し禁止令の約束が吹っ飛んで、少年へ声をかけていた。


「なんだよ?」


 ヤツは冷ややかな面持ちをして私を見ている。本当にムカッてきたぁ!


「私に対しても彼に対しても、目上の人に対しての言葉遣いをきちんとしなさいよね」

「はぁ? 年上ってオマエ、いくつだよ?」


 しかめっ面になった少年から問われ、私はハッと息を切る。そういや私は二十五だけど、高校生ぐらいに見える特権があったんだ。せっかくの異世界なんだから、新たなスタートとして年を盛大にサバよんでやろう!


「十六」


 ちゃっかりとサバよんで答えてみた。すると、瞬時にヤツがさらなるしかめっ面を見せよる。


「はぁ? どこが年上なんだよ? オレは十七だ」

「十七!! (だとぉおおお!!)」


 私は目ん玉が飛び出るんじゃないかというほど目を見開いて驚いた! 本当にコイツ、わっけーな!


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