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第六十五話「想い重なって」

心の何処かではキールから愛されているんじゃないかって期待していた。私がこの世界に来てから、夜な夜な過ごしていた女性達とはエッチしなくなったし、私以外の人ともしないって約束してくれた。


 それに私がマルーン国へと連れて行かれた時も、命の覚悟を決めてまで連れ戻しに来た。キールは意地悪だし、エッチな事もするけど、本当は優しくて私を温かく見守ってくれていて、屈託のない接し方までしてくれるようになったから、期待していたんだ。


 だけど、それはすべて役目の契りを交わす為の行動だったなんて。私とんだ勘違いをしていてバッカみたい! 相手は一国の王だし、私みたいな凡人、しかも異世界から来た人間なんか相手にしてもらえないのはわかっている。


 振り向いてもらおうなんて恐れ多い事だ。それを頭では痛いほどわかっていても、私はどうしても諦めたくなかった。だってこんなにも凄く大好きなんだもん。もうこの気持ちは止められない。


「……私じゃダメなの?」


 まだキールの口から決定打を聞いたわけではない。私は可能性に賭けてみた。


「千景?」

「私、キールとずっと一緒にいたい。契りを交わした後もずっとずーっと。私、キールの事が大好きなの、ひっくっ」


 突然泣き出して告白をする私に、キールは大きな瞳を揺るがし、私を見つめる。


「…………………………」


 キールはなんて答えたらいいのか思い悩んでいる様子だった。それだけでも可能性がしぼんでいくのがわかった。


「知ってたよ」

「え?」


 キールからの予想外の返答に、今度は私が目を剥いた。


「千景のオレへの気持ち」

「え? でも私さっき気付いたばっかだよ?」

「オレはもっと前から知ってた」

「ふぇ?」


 キールは苦笑いをしている。私は意味がわからず、頭の中に? マークを浮かべていた。


「だってオマエ、オレがキスしても手を出しても、いつも受け入れてくれてたじゃん?」

「そ、それはキールの無理矢理だったじゃんっ」

「躯はきちんと反応してた。オマエ好きな人じゃないと、反応しないんだろ?」

「そ、そうだけど」


 い、言われた通りで反論が出来ないぞ。


「熱を上げていたアイリからのキスも拒んだみたいだしな?」

「!?」


 何故それをキールが知っているんだ! キールはからかうかのように表情を緩めていた。それも束の間、フッと真顔になって語り出す。


「オマエの事はさっきも言ったけど、一夜限りの関係だと思っていたし、情どうこうは考えていなかった」


 今のキールの言葉で、また胸が締め付けられる。


「初めて契りを交わそうとしたあの日、オマエから愛し合ってから、やりたいって言われて、次に契りを交わす時には情が必要だと思った。それでオレは自分の気持ちは考えないようにして、千景がオレを好きになった時に交わそうと考えたんだ」

「え?」


 心臓がまたドクンッと大きく波打ち、躯が凍結した。それってまさか? キール、私に好きになってもらうようにわざと勘違いさせるような接し方をしていたわけじゃな……い……よね? そう思った瞬間、冷や汗が滴るような気がした。


 キールから如何にも好意的な態度があったわけではない。とはいえ、何気ない厚意や時には甘いエッチな事はされていた。それはすべて私に好きになってもらう為の演技だったんじゃないよね?


「初めは下手に手を出さないようにして、日が経つにつれ、千景からの恋心が大きくなるのが見えると、スキンシップを取るようにしていた」


 ――ドクンドクンドクンッ。


 鼓動がいやに速くなる。キールの言葉を聞けば聞くほど、嫌な予感が的を射るように思えた。やっぱりキールは私の事をなんとも思っていないんだ。私は虚無感に見舞われ、ただひたすら涙が頬を伝う。


「千景と初めて大喧嘩して、オマエがオレを引き留めてくれたあの日、オマエの気持ちを再確認して契りを決行しようと思っていたんだ。結局シャルトが入ってきて、中断になっちゃたんだけどな」


 和やかに思い出し笑いをするキールだけれど、私はもうこれ以上は聞いていたくなかった。


「キールは私をなんとも思っていないのに、契りを交わそうとしたの?」


 半ばヤケクソになった私はキールへと問う。彼の顔を見るのが辛くて、微妙に私は顔を伏せていた。今、キールがどういう表情をして、私を見ているのかわからなかった。


 …………………………。


 ややあって再びキールが口を開いた。


「オレは一国の王だ。いくらバーントシェンナの王族に自由な恋愛が許されているとはいえ、女性選びは慎重に行わなければならない。未来の妃になるかもしれない女性(ひと)だからさ」


 キールの言いたい事は胸が痛いほどわかる。


「こう言っちゃなんだか、千景は妃として素質や品格がない」

「!?」

「元々王族や貴族育ちではないから、仕方ないのはわかる。とはいえ、どうしても素行からして難しいと思っている」


 キールから本心を曝け出される。


「それにオマエ自身も妃にはなりたくないと言っていたし、そもそもオマエの見た目も中身もオレのタイプじゃないんだ。根本的に恋愛対象には見れなかった」


 さらに追い打ちをかけられ、私は深い常闇の絶望を味わった。


 ――ひ、酷い……。もうこれ以上は本当に聞いていたくない!


 私はしゃくり上げそうな声を拳を作って必死に堪こらえた。


「そう思っていたんだけど、一緒に過ごしていく内に、オマエが言葉を懸命に覚えようとしたり、嫌がらせを受けても、文句一つも言わずに報復しようともせず、どんな人間にも屈託のない接し方をして、異種族のスーズを助けてやったりと、思いやる誠心もあって、少しずつオマエに対する見方が変わっていった」


 キールの声色が温かくなって、私は顔を上げて彼を見つめる。


「それになによりオレを想ってくれた。命を懸けてあの厳酷な試練を受け、オレを救い出してくれた。その想いは本当に嬉しかった。その時からか、いつの間にか花が開いていたんだ」

「花?」

「オマエに対しての恋慕の花だ」

「え、それって?」


 私は心の中にパッと大輪の花が咲き、春風のような暖かい風が舞い込んできた。


 ――キールの言いたい事って……もしかして?


 私は懸命に思考を巡らせ、キールの顔を見つめる。その間にキールはゆっくりと私の方へと近づいて来た。彼が目の前まで来ると、私は無意識の内に椅子から立ち上がって、キールを見上げる。


「キール、さっきの言葉って私の事が好きなの?」

「あぁ。この間、契りを交わそうとした日、オマエの気持ちを聞いてオレも伝えようと思っていた」

「本当に?」

「本当だ。オレは千景が好きだ」


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