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第六十四話「気づいた本当の想い」

「千景?」


 キールは私の姿を目にすると、少し驚いた表情を見せて私の名を呼んだ。


「こんな遅くにゴメンね。まだ仕事中だった? そしたらごめん」

「いや、もう休もうと思っていたところだ」

「そ、そっか。部屋で待っていたんだけど、戻って来ないから、少し心配で来ちゃったんだ。休んでいたところに迷惑だったかな?」

「いや、そんな事はない」


 私は僅かに困った様子のキールを見て、やっぱり迷惑だったんだと気付く。私の部屋で眠る気がなかったのに、自室まで来られたら困るよね。私は顔には出さないように努力していたが、心の中ではシュンとした気持ちになっていた。


「千景……」

「なに?」

「本当は訊きたい事があって来たんじゃないのか?」

「え?」


 キールは苦笑いをしていた。確かにキールの言う通り、色々訊きたい事があった。一緒に眠る時に少しでも話してもらえたらなって期待をしていた。でもキールは自室で眠ろうとしていたし、私の期待に応えたくなかったのかもしれない。



「た、確かに訊きたい事はあるけど、もう遅いし別の時でいいよ。私はもう自分の部屋に戻るね」


 私はキールの言葉を待たずに去ろうとした。


「構わない。部屋に入れよ」

「え?」


 キールは去ろうとした私の手を取って、そのまま部屋へと招いてくれた。私は妙に緊張が走った。キールの部屋に入るのはこれでニ回目だな。足を踏み入れて、すぐに目に付いたのが、初めて入った時にも目に留まったルイちゃん像の絵画。


 可憐な美少女が微笑んでいる絵は見る者を魅了する。だけど、今の私は絵画を真っ直ぐに見られなかった。どうして彼女がキールの元を離れて、ヒヤスンデス国だったかな? 他国の妃になったのか。それになんだか彼女を見ていると、複雑な思いに駆られる。これってまるで……?


「適当に掛けていい」


 キールに言われて、私は近くにあったクラウンの椅子へと腰を掛ける。相変わらず度胆を抜かされる豪奢な部屋だな。豪華な調度品や装飾に目が眩みそうだ。そりゃそうだよね、王様の部屋だもん。


 キールは私に座るよう勧めてくれたけど、自分は私に背を向けて立っていた。微妙に空気が重い。訊きたい事は沢山あるのに、いざとなるとなんの話から切り出したらいいのやら。私が心の中で複雑に思いを交差させていると……。


「なにから話せばいいのか。まずはオレの身分からか」


 キールも同じ思いだったみたいで、話の切り口を出してくれた。


「黙っていて悪かったよ。騙すつもりはなかったんだ」

「じゃぁ、どうして?」

「オレは見ての通り若い。オマエと年が変わらないし」

「ん?」


 今の言葉に私は違和感を覚えたぞ。


「王は通常二十歳の成人を迎えて即位する。でもオレの場合は四年前に先代の父と母と他界をしているんだ」


 そうだったの? 言われてみれば、キールの家族と会った事がなかったな。


「実際のところ、王政はアイリが動かしている。将来はオレがその役を担わなれけばならないが、まだまだ勉強中の身だ。オレは年齢や能力からして、まだ正式な王ではないんだ」

「そうなの?」

「とはいえ、契りの件は王の術力でしか行う事が出来ない。だけど、王として身分を明かそうにも、オマエなにかとオレに突っかかってきていたし」


 だってキール、エッチだったじゃん!


「オレなりにコミュニケーションをとっているつもりだったんだけど」


 あのチュー攻撃はコミュニケーションだったのか!


「オレが王として契りの件を伝えても、オマエ拒否ってきそうだったし」


 間違いなく拒否ってたな。


「それでアイリに王の代理をしてもらう事に決めたんだ」


 なんと事情を複雑にした原因は私にあったのか!


「アイリの方が王としての威厳や風格もあるし、オマエ見るからにアイリに好意的だったから、その方が契りの件を理解してくれると思ったんだ」


 なんか懐かしい事を掘り出してきたな。アイリッシュさんにときめいていた事なんて、スッポリと頭から抜けていたぞ。


「契りの話をした時、オマエ泣いて怒るし、正直焦ったよ」


 そりゃそうだ。禍だの封印するだの言われて、終いにはどこの誰かもわからん術者と契りを交わせなんてさ。人の豊満なボディをなんだと思っていやがるって普通は思うって。


「契りはバーントシェンナの未来がかかっている。そこに情のどうこうなんて関係ないと思っていた。だからオレ的には一夜限りの出来事だと思って割り切っていたんだ」


 今のキールの言葉に、私は一瞬胸が突き刺さる思いがした。まさかキール、今もそう思っていないよね?


「でもオマエが情を大切にしている事に気付いて、オレは最後まで契る事が出来なかった」

「それって私に情がなかったからって事?」


 私は異常なほどドキドキと心臓が早鐘を打っていた。キールは苦笑していた。その表情を見て、私は瞳に涙が溜まる。確かに契りを交わそうとした時、キールには愛情なんてものはなかった。それは私もキールに対して同じ思いだったからわかる。


 ――キールは今もそう思ってるの?


 契りは託された役目だけだって思っているの? 動悸がさらに速まっていく。胸がキュゥと締め付けられて苦しい。そんなの嫌だ嫌だよ! 感情が激しく高まって瞳から涙が溢れて零れ落ちる。そこにある感情が芽生てくるのを感じた。


 情をどうこうの話だったら、なんで他の女性とは最後までやれたの? 私との契りは大事な目的があったのに。あの時キールは酷く迷走していた。悩ましげな、切なそうな、なんとも言えない複雑な表情だった。


 まさかキールあの時、情を気にして元恋人の事を思い出していた? 本当は今でも彼女の事が忘れられないんじゃ? まだ愛しているの? 私は胸がパンパンになって張り裂けそうで、今にでもしゃくり上げそうな声をグッと抑え込んだ。


「キールにとって契りはバーントシェンナを救う為の義務感? それとも責任感なの?」

「え?」


 キールはハッとしたように私を見つめ、そして問いに答えてはくれなかった。その様子を見て、彼にとって契りとは今でも国を救う為の役目に過ぎないと、そう思っているのだと悟った。すなわち、私はキールから愛されていないという事だ。


「ひっくっ、う、うぅっ」


 とうとう私は我慢出来ずに泣き声を漏らしてしまった。私、気付いたよ……。


 ――キールの事が好きだ。凄く凄く好きだ。


 いつの間にこんなに好きになっていたんだろう。なのに、なのに気持ちに気付いた途端、キールに受け入れてもらえないなんて、辛くて死んでしまいそうだ……。


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