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第六十三話「長い道のりに感じます」

 マキマキ王の城から離れ、マルーン国とサヨナラをした私とキールはスルンバ車で、バーントシェンナ国へと向かった。マルーン国からバーントシェンナまではスルンバ車でも丸三日はかかる。


 だから私が拉致されて目が覚めた日はちょうどマルーン国へと着いた日だった。同じくキールは私を取り戻そうと、時間差でマルーン国へと駆けつけてくれた。そして帰りはひたすらスルンバ車を走らせていたが、時折、街で休憩や仮眠をとりながら、移動を繰り返していた。


 スルンバ車内や休憩の部屋で、私とキールは殆ど会話をしなかった。聞きたい事は山ほどあるのに、込み入った話が出来る雰囲気ではなかったのだ。何処となくキールの気がそうさせないというか。


 私的にはキールの腕の中にいたい気分だったんだけどね(別にイチャイチャしたいわけではないぞ)。せめてとシャルトの容態だけは確認しておいた。シャルトは私と引き離された後、実は命の危険に犯されそうになっていた。


 頭を強く打たれ、さらに(とど)めを刺されそうになった。しかし、バーントシェンナの術者は身の危険を感じた時、プロテクション(いわばバリア)が躯から放たれるらしく、早々に手掛けられる事はないという。


 そのプロテクションが放たれると、他の術者へ危険を知らせる。それでキールとアイリッシュさんはシャルトの危険を知ったそうだ。奇襲した術者達はキール達に知られて追われる事を恐れ、シャルトを残して私だけを連れて去って行った。


 残念ながら私とキールはマルーン国にいた時、奇襲を(おこな)った術者ニ人を仕留める事が出来なかった。考えたくはないけれど、既にマキマキ王が彼等を手掛けた可能性が大きいとキールは推測した。


 マルーン国の刺客だと足がついていたのに仕留められなかったと、キールはかなり悔しい思いをしていたけれど、私を無事に取り戻せた事にはかなりの安堵感を抱いてくれたようだった。


 今後、あの悪党のマキマキ王から変な因縁をつけられないかが心配だったけれど、それはキールの前では口にはしなかった。スルンバ車での移動はゆっくりと休めなかったけど、ニ日目の夜には無事にバーントシェンナへと到着でき、私はかなりホッと胸を撫で下ろした。


 宮殿内部に入ると、広い玄関のホールの中心に立つ大きな螺旋階段から、こちらへと駆け寄る足音が響いて来る。凄まじい速さの靴音だ。あれはアイリッシュさん? 彼は相変わらず陽光のような煌きを放って、こちらへと勢い良く向かって来た。


「王! ご無事でおられますか!」


 キール一直線、いや彼にはキールしか見えてないようだ。私には目もくれず、キールの安否の確認をしていた。今確かに彼はキールの事を王って呼んだよね? やっぱりキールは本物の王なんだ。


 この三日間、一番知りたかった事だったけど、キール本人の口からは聞き出せず、ずっとモヤモヤしていた。今のアイリッシュさんの言葉を耳にして確証が得られた。今の感情をどう表したらいいのだろうか。


「見ての通り無事だ」

「良かったです」


 キールの返事にアイリッシュさんから安堵の笑みが零れる。


「ちゃんと千景も取り戻して来た」

「え、千景?」


 ここでようやくアイリッシュさんは私の存在に気付き、私の姿を網膜に映す。


「あっ。千景、キールと無事に戻って来てくれて、本当に良かったよ」


 なにかを思い出したように呟いた後、彼は私の安否も喜んでくれた。


「アイリ、もう隠す必要はない。千景にはオレが王だと知れている」

「え、そうなの?」


 アイリッシュさんは大きな瞳を揺らし、私を凝視する。私は何故か気まずい雰囲気を感じ取って身を引きそうになった。そこにまた新たなにこちらへと向かって来る足音が聞こえてきた。その足音の人物とは?


「シャルト!」


 私は姿を現して人物の名を叫んだ。私の声にシャルトは真っ先に私の方へと駆け寄って来て、すぐに私の頭をナデナデした。


「千景、よく無事に戻って来れたわ! キール様、感謝を致します」


 あのシャルトが目頭を熱くして、キールにお礼を伝えた。心底心配していたシャルトの元気な姿を目にして、私も涙腺が緩んできてしまう。v

「シャルトの方こそ無事で良かったよ! 打たれた頭は大丈夫なの?」

「大丈夫よ。宮殿に戻ってから精密検査を受けて治療もしたから問題ないわ」

「良かったぁ」


 シャルトの返事に私は満面の笑顔を広げる。


「キール様もお疲れでしょう? この後はゆっくりとお休みになって下さい」v 「そうだね、すぐに休んだ方がいいよ」


 シャルトの気遣いに、アイリッシュさんもキールの休養を勧めた。ところが。


「悪いが一時間後に緊急会議を行いたい。マルーン国であった事を話す。それと今回シャルトを襲った術者の捕縛が出来なかった。あちらが今後どう出るか、こちらも対策を考えておく必要がある。今から官職達を集約してくれ」

「「承知致しました」」


 アイリッシュさんとシャルトは畏まって返答した。その様子を目にした私は本当にキールが王であると、改めて実感させられたのだった……。


☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆


 ――キール、まだ戻って来ないのかな?


 私は自分の部屋で侘しくキールが戻って来るのを待っていた。時間で言えば、夜中のニ時ぐらいだろうか。会議が始まったのが二十二時くらいだったけど、まだ終わらないのかな?


 キールもゆっくり休んだ方がいいのにな。私はキールの躯の心配をし、早く彼に逢いたくて逢いたくて堪らなかった。今日はゆっくりと一緒に安眠したいよ。なのにいつになったら戻って来るの? 一人では先に眠っていられないよ。


 そして私はハッとある思いがよぎった。まさかとは思うけど、キール、自分の部屋で休んでないよね? 私は居ても立ってもいられず、ババッとすぐに立ち上がって部屋を出た。それから隣のキールの部屋へと足を運ぶ。


 ――キール、いるのかな?


 扉の前まで来ると、なんだか躊躇してしまうけれど、私は勇気を出してコンコンと扉をノックした。


 ――ドキドキドキッ。


 妙な緊張感に見舞われながらも、私は扉の向こうからの反応を待った。返事はない。まだキールは戻って来ていないのだろうか。暫くの()があったけれど、ギィーと扉は開かれ、中から寝衣姿のキールが現れた……。


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