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第六十二話「バーントシェンナの若き王」

「え?」


 刹那、私の頭の中が真っ白に染め上がる。


 ――今、この王はなんて言った?


 キールの事をバーントシェンナの王って? 私は無意識にキールを見遣る。そしてハッと息を切って思い出した! ピアスだ! マキマキ王が着けているピアスと似ているピアスを着けていいたのは……アイリッシュ王じゃない、目の前にいるキールだ!


 現にキールの耳には銀色のリングが見えている。以前に八重桜みたいなお花の紋章が彫られたピアスを私は見たんだ。じゃぁ、バーントシェンナの王はアイリッシュ王じゃなくて、本当はキールなの?


 私は開いた口が塞がらなかった! まさかまさかまさかだよね! でもキールが王なら、マキマキ王が言っていた王にしか禍の力を封印する事が出来ないという話とキールにしか契りを交わせないっていう事柄の辻褄が合うぞ!


 考えてみればバーントシェンナにいる時、キールが誰に対しても偉そうな態度だったのもわかる。年上のアイリッシュさんにもシャルトにもタメ語だったし、シャルトなんてたまにキール様って呼んでいた。


 それにたまに回廊とかでキールを見掛けると、何故か衛兵や付き人を何人も引き連れていて、彼等はいつもキールに(かしず)いて様子だった。あ、あと、だからか! 夜な夜な美女とムフフな生活を送っていたのか! それも納得がいくぞ。


 ――な、なんという事だ!


 私はこの一ヵ月半以上も、国の王とベッドを共にしていたのかぁあ! なんでキールは身分を隠していたんだ! 私は心底で雄叫びを上げていた。しかし、そんな私の思いはシカトされ、王達の会話は進んでいく。


「其方は相変わらず、突拍子もない行動を起こしてくれる。国の主ともあろう者が実に軽率な行動だ。ニ年前とお変わりがないようで残念だよ」


 ニ年前? なんの事だろう? マキマキ王はキールに対し、心底呆れた表情をして吐き捨てた。


「マキシムズ王、私は緊急を要すると何度も申し出を致しました。しかし、貴方は一向にお応えを拒んでいた」

「拒んでいたのではない。あまりに急なお越しに、こちらも時間を作る事が出来なかったのだ」

「仮にも私は王です。急を要すると申していたのに、私事の都合を優先なさっていたという事ですか?」

「都合は時と場合だ。何事も臨機応変に進めなければならない。すべてを同時に進められぬ事ぐらい王の其方であれば、お分かりになる事だと思うのだが?」


 マキマキ王はあう言えばこう言うな! 手強い曲者だ!


「貴方相手では事が上手く運ばないのは重々承知の上、私は覚悟をもってここに参りました」


 キールはマキマキ王に気持ちをぶつけていた。か、覚悟って?


「私はよしておくよ。其方を相手にしてはすぐにヤラれてしまうだろう。確かニ年前も其方はヒヤシンス国に一人で乗り込み、二百あまりの兵士を押し退け、ビア王のもとへと行かれたではないか」


 は、はい? 二百あまりの兵士を押し退けたとは? どんだけお強いんすか? 私はキールをガン見してしまう!


「まぁ、残念な事に、その時のお連れする筈だったルイジアナ姫は今はヒヤシンス国の妃になられておるが」

「え?」


 マキマキ王は明らかに蔑んだ表情と皮肉な言葉をキールへと投げ、嘲笑していた。


 ――ル、ルイジアナって?


 キールの元恋人の名と一緒だよね? ま、まさかまさかまさか! 元恋人はバーントシェンナの宮殿から離れたとは聞いていたけど、誰も何処にいるのか教えてくれなかったのって他国の妃になっていたからだったの!


 ――ど、どうしてそんな事に!


「マキシムズ王、私は貴方と言い争いに来たわけではございません。そちらの娘を至急にお返し願いたい」

「返し願いたいと申すが、この方は“例の方”だ。其方だけのものではないのだよ? それをこの一月半(ひとつきはん)も鳥籠の中に監禁していた事実は大問題だ」

「千景は我が国へ後宮入りした娘です。ご勝手に連れ出すのは拉致の罪に問われます」

「それは先程も説明したではないか。彼女が倒れていた処に、我が国の臣下が見つけ助けたと」

「貴方は千景が禍だとご存じで連れて行かれた」

「違うと言っておるだろう? 彼女をこの宮殿で初めて目にした時に気付いたのだ。何故、そうまでして私を悪者に仕立て上げようとする?」


 ッカー、このマキマキ王マジ白々しいぞ!


「重臣を襲った術者を調べ、真実を明るみにすればわかることです。」

「そうだな、ただその者が見つかればいいが?」


 マキマキ王は意味ありげな笑みを浮かべる。ま、まさか、あの時の術者をこの王は始末する気じゃ? 私を同じ事を思ったのか、キールの表情も一変する。ど、どうしたら、この口の減らない王を白状させられるんだ!


 私はもう激昂が極致に達して震え上がっていた。それはキールも同じ気持ちでいる事だろう。だが、キールは決して表情には表さず、次の切り札を口に出す。


「千景は私と契りを交わす約束を致しております」


 な、なんと、キールは大胆な告白をしてきたぞ!


「それは本当かね? もしやそちらの王に脅かされているのではないか? であれば、無理に合わせる必要はないのだよ?」


 マキマキ王は私を宥めるような優しい面持ちを見せ、手を差し伸べてきた。この美顔に騙されてはいけない! 私はマキマキ王の元を離れて、キールの方へと駆け出す。


「ほ、本当です! 私はバーントシェンナの王とぶっ契る約束をしています!」


 自分で答えて恥ずかしいぞ。でも約束をしたのは本当だもんね! それにマキマキ王とは契らないと、ハッキリと示しておかないと。私は言い終えると同時にキールの腕の中へと入っていった。


「キール!」

「千景」


 キールは優しく私の躯を包み込んだ。ここは安心出来る場所だ。私はやっと安堵感を抱けた。


「実に残念だな。やっと待ち焦がれて会えた女神が手に入るという処だったというのに。仕方ない、今日の処は姫君を其方に引き渡そうではないか」

「「え?」」


 意外にもマキマキ王は素直に引いたぞ!


「だが、いずれ貴女は私の元へと戻って参るだろう」


 マキマキ王は最後いわくありげな笑みを浮かべて、そう言葉を残したのだった……。


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