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第六十一話「不本意な契り」

 私は必死に抗うが、王は私の胸元の上部へと口づけを落とす。


「ひゃぁ、や、やめてよ!」


 ――やだやだやだっ!!


 躯中が抵抗しようと叫んで、眦に涙が溜まる。好きでもない人にこういう事をされたくない! これじゃただの強姦だ! 私はさらに必死になって、王の躯を払い退けようとする。しかし、その手は逆に王に押さえられ、同時に足も押さえ付けられてしまう。


「や、やあぁ!」


 ――やだやだやだぁ!!


 私は半ば狂ったように泣き叫ぶ。そしてすぐにキールの姿が浮かんだ。こんな事になるのであれば、キールに抱かれていれば良かった。素直に契りを交わしていれば良かったんだ。バーントシェンナは危険に犯されそうになっていた。


 だったら早くキールと契りを交わして、幸福の願いを叶えておくべきだった。今の目の前の王と契りを交わしても、彼は私利私欲な願いをするに違いない。そんな願いの為に抱かれなきゃならないなんて! 涙で視界が歪み、私は声をしゃくり上げていた。


 ――キール、助けて! 助けて!!


 私の思いは虚しく王から受ける行為が進んでいく。私は声を押し殺して我慢する。代わりに止めどもなく涙が溢れ出ていた。もう諦めるしかないんだ。そう心に思った時、必死で抵抗していた躯の動きを止めた。


「やっと受け入れる気持ちになったようだな」


 王は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。だが、私は……。


「ヤリたければ好きにすればいい。でも私はアナタを受け入れないから」


 躯は正直だ。きっと最後には受け入れないだろう。それに賭けるしかなかった。私は覚悟を決め、どこか冷めた気持ちでいた。すると……。


「え?」


 突起を含んでいた王の唇と翻弄としていた指が離れた。私は瞠目して王を見上げる。


「思っている以上に……」

「え?」


 王は言葉を続けずに、私から躯を離して上体を起こす。涙で霞む視界の中、王の表情を読み取る事が出来なかったけれど、王の声からして何処か諦めがついているように聞こえた。思ったよりも物わかりがいいのか、この王は?


「それに……これ以上は続けられないな」

「え? それってどういう意味?」


 王の声が決死を覚悟したような雰囲気に感じ取った。その時だ。


 ――ドガシャッ――――――――ン!!!!


 突然、ガラスが砕け散る音が部屋中へと響き渡る! 重厚な窓ガラスが派手に割れたのを目にし、そのガラスの破片は部屋中に撒き散らすように舞い上がっていた。


「!?」


 ――な、なんだなんだ! なにが起こったんだ!?


 あまりの突然の出来事に茫然とするのも束の間、割れた窓ガラスからフラッと、なにか大きな影が揺れ、それはまるで引き寄せられるように軽やかに姿を現したのだ。私の目をみるみる大きく見開き、現れた人物に視線が奪われる。だってまさかの……?


「キール?」


 気が付けばその人物の名前を呼んでいた。


 ――まさか……本当にキール?


 初めて会った時と同じバーヌース系の衣装を着用して、威風堂々とした姿のキールが現れたのだ! 私は彼の姿を凝視する。空気は至って強張っていて重々しかった。


「今の音は何事ですか!」


 いつの間にか数人の衛兵が部屋へと足を踏み入れていた。そりゃ、あんだけの凄絶な音がすりゃ来ちゃうよな。衛兵達は割れた窓ガラスを目にすると唖然としていたが、キールの姿に気付くと、すぐに彼に剣を向けた。


「侵入者だ! あ奴を捕らえよ!」


 一人の衛兵の声に、他の衛兵が一斉にキールへと向かって行く、わわっ、やめろやめろやめろぉ!


「大事ない、下がれ」


 緊迫とする状況に冷静沈着な声が遮る。その声はマキマキ王だった。声は落ち着いているが、顔は恐ろしく無表情であった。


「マキシムズ王!」


 何処をどう見ても只事ではないと、衛兵の一人は躊躇していた。


「聞こえなかったのか?」


 こ、怖い! さすが王だ。威厳ある表情に衛兵達もたじろぎ、少しの()を置いた後、素直に退室して行った。


 …………………………。


 部屋に三人のみとなった私達だが、相変わらず肌にズンッと圧し掛かる重たい空気が漂っていた。そして部屋いっぱいに張り裂けるような殺気が満ちている。それを打破したのはマキマキ王だった。


「これはこれは……バーントシェンナの王殿ではないか」


 ――へ?


 私はマキマキ王の言葉に耳を疑う。だって今「バーントシェンナの王」って言ったよね? どう見てもキールに向かって言ったよね? 勘違いしてない? この王ってば! それともアイリッシュ王もいるの? でも目の前にはキール一人だけしかいない。


「随分と派手な登場をしてくれたものだが、このような行いをなさるのはいかがなものか? ここは国の主が住む王城ですぞ? 見ようによっては宣戦布告のように思えるのだが?」

「宣戦布告はそちらからではないですか、マキシムズ王。我が国に宮殿入りした娘を拉致するとは、わざわざ王の名を汚辱しておられるのですか? このような振る舞いが民衆の耳に入りましたら、マルーン国の信用はガタ落ちですよ」


 私の疑問をよそにニ人の会話は繰り広げられていた。宣戦布告ってヤ、ヤバシシ! 私は一人アワアワと慌てふためく。


「聞き捨てならぬセリフだ。王と言えど許し難きお言葉ですぞ」


 実に面白くないと、マキマキ王は目を細めながら答えた。ってだからキールは王じゃないって!


「そのセリフ、そのままお返し致します。我が国の重臣にも身体的な害を与えてくれましたよね? 奇襲を為した術者の頭髪を重臣は採取しており、どの国の者か調べさせて頂きました。そうしましたら王、貴方の国の者でしたよ? これはどう説明して頂けるのでしょうか? きちんとその者を調べさせてもらいますよ?」


 え? 重臣って? シャルトの事だよね! しかも奇襲して来た輩はやっぱりマキマキ王の刺客だったのか! 私はゾワゾワと背筋が凍りつき、大きく身震いをした。間違いない。私は拉致られてここに連れて来られたんだ!


「全くなんの事だ? 勘違いなさっているようだが、こちらの姫君が倒れている所を我が国の臣下が見つけ、お助けしたのだ」


 う、うわ、顔色一つ変えずに動揺する姿も見せず、逃げ切ろうとしているぞ。なんて大物なんだ、この王は! その様子を私は目の当たりにした私はこの王は相当な悪だと悟った!


 キールは対峙するように、マキマキ王を睨み上げていた。そりゃ大事なシャルトに怪我をさせて、いけしゃぁしゃあとされていれば腹立たしいよね! というか、この王の頭を今すぐにでもカチ割ってやりたいわ!


「先程から妙な言いがかりばかりつけておるが、これ以上、捏造を繰り返すのであれば、私の方も許しませんよ? バーントシェンナの若き王、キール・ロワイヤル殿」


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