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第七話「学習能力を身につけないと身の破滅」

 街の入口に近づくと、職人技の光る浮彫(レリーフ)が目に焼き付く門扉が建っていて、その前には数人の門衛の姿があった。簡易甲冑姿で顔が見えないけど、ニ本足で立っているから、ちゃんと人なんだろうな。


 しかし、何故か翡翠色の瞳をもつ色情狂は門へは向かわず、人目からは死角となる物陰に私を連れて行った。さらにだ、いきなり上着を脱ぎ始めたのだ!


「!?」


 コ、コイツ、欲情しよって! 人の気持ちをシカトして、おっぱじめようと考えているな! 私は文句を投げつけようと口を開いた瞬間、少年の大きな手が私の口を塞いできた!


 ――なんてヤツだ、なんてヤツだ!


 私は塞がれている手を払い退けようとするがビクともしなかった。引っかいたり叩いてやったりもしたが、やっぱり手は退けられない。少年の事を少しでも良い所があると思った私が間違っていましたぁー! あまりの(いか)りの大噴火に、瞳に涙が湧いてくるのを感じた。


 ――あぁ、もうダメだ! コヤツに食われる!


 もはやここまでかと、私は抗う事を止めた。すると少年が私の躯にフワリと上着を掛けてきた。


「え?」


 上着は私にはめちゃめちゃ大きくて少し重たかった。でもほんのりと甘い香りが鼻をくすぐり、一瞬ポワ~ンと惚けさせる。そんな私の思いを知らず、いきなり少年が私の膝裏に手をかけ、お姫様抱っこをしてきた。


「!」


 思わず声を上げそうになったら、少年が凄い形相で睨みつけてくる。


 ――うげっ。


 喋るなですよねー。少年はフワッと私の耳朶へと口元を近づけ囁く。


「しっかりオレに掴まってろ。じゃなきゃ、振り落とされて死ぬからな」


 ひぇ、振り落とすってなんすか! か弱いレディに対してなに言ってんだよ。全く少年の言う意味がわからなかったが、私は咄嗟に彼の首に腕を回してしがみついた。それから思いもよらぬ出来事が起こった。


 少年がザッと地を蹴って高く跳躍する。重力の流れに逆らった圧力に見舞われ、反射的に私は目を瞑る。何が起きたのかわからず、恐々(こわごわ)と身を強張らせていたが、暫くして瞼を開いてみると……?


 ――うぎゃっ!


 そ、空を飛んでる!? な、なんでだ! 驚きのあまり声を出しそうになったが、グッと(こら)えた(なんたって声出し禁止令を受けているからね)。


 ――す、凄い! お姫様抱っこをされて飛んでるって快かーん!


 私はキラキラとした眼差しをして見下ろしていた。だって目の先に広がる光景がアラビナンナイトの世界なんだもん! 城壁に囲まれた古城ホテルのような建物や空中回廊があったり、随所に並んでいるカラフルな玉ねぎ型の塔は色鮮やかなモザイク柄でエキゾチックだ。


 人は豆粒サイズにしか見えないが、外套を身に纏う人、ベリーダンスの衣装にシフォンベールを羽織るセクシーな人、ガンドゥーラみたいな民族衣装を着た人達など。夢とはいえ、臨場感に溢れていた。


 そういやエキサイティングし過ぎて肝心な事を忘れていたけど、あっしのケンタウルスちゃん達よ、何処にいるんすか? 目をこしらえて探してみるけど、それらしき獣の姿は見当たらない。


 ――オー、ノォー!


 私のテンションはだだ落ちとなった。仕方ない、また個人的に探しに行けばいっか。と、気を取り直したところにだ。私の目にババーンと城壁に囲まれた、如何にも王宮らしい壮麗な建物が映し出される。大きな玉ねぎ型の塔はこれまた他とは格別に異なった絢爛豪華なものだ。これはまさしく王宮ってやつですか?


 いよいよ少女漫画&小説王道のイケメン王様に会えちゃんうんだな♪「君は国を救う救世主だぁ」とか言われちゃうのかな! 世界を救った後は王子様とか騎士(ナイト)とかとウェディング・ベルですか! わわっ、どんなイケメンが待っているんだろう?


 どうか目の前の少年が赤い糸の相手ではありませんように。その前にだ、有るだろうと思われる厄介事のシーンはカットしてしまって、とっととラストのラブEDにいけないもんかね。面倒な事柄によって刺激を受けて、夢から覚めちまったら無意味だからね。


 あぁ~、もう少しで王様の所に連れて行かれるのかと思うと、なんだが緊張してきたな。切迫感が募ってきた! そんなこんなん妄想爆裂中だったのだが、既に王宮のバルコニーらしき場所へと着いていたようだった。少年は優しく私を地に下ろしてくれた……までは良かった。


『意外と重かったな……』


 ――ん?


 今コヤツ、絶対に重かった的な事を言いやがったような? その証拠にわざとらしく首を傾けたり、腕を回したりして腹立つわー! わっけーんだから、もっと腕力と体力つけろっつーの! 少年の態度に腹が立った私は借りていた上着を乱暴に脱いで突きつけてやった。


「あぁ」


 ヤツは上着を取ってそれをサッと羽織る。


「ここは何処? 王宮ってやつ?」


 私は興味深げにキョロキョロとしながら問う。もうおったまげーな、どでかいお城にあんぐり。私の世界で言うヨーロッパのゴシック式やバロック式とはまた異なるエキゾチックなデザインが広がっていた。


「そうだ。南地帯、バーントシェンナの王宮だ」

「バンドすんな? よくわからん名前だね」

「品のない名前に間違えるな。バーントシェンナだ」

「バードシェイク? 鳥のシェイクって面白い! ウケる~」

「頭の悪い女だ」


 少年は顔を横に振りながら、絶望的とも言えるような深い溜め息を吐いた。おいおいおいおい、破滅的、致命的みたいな言い方と態度しよって! ほんっと、いちいちムカツククソガキだ。


「こっちへ来い。まだその言葉では喋るなよ」


 少年が指を差して案内してきた。が! 私は腹立たしさが治まらなかった。よくよく考えればコイツはけっこうな年下だ。なのに無駄に偉そうだ。上から目線ってやつ。んでもってまた喋るなと言うか! 喋れないストレスからか私は感情が爆発してしまい、舌をベーッと出してしまった。刹那、後悔という闇に襲われる。


 ――ヤ、ヤバイ! ヤバイゾ、ヤバイゾ!!


 少年の勝手な独創なのか、こっちの世界の住人は舌を見せるとそう思ってしまうのか……案の定、ヤツが私の方へと近づいてきた! わぁ~~またチューされるぅうう!


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